地球環境問題を考える:イントロダクション

                                     基礎セミナー「環境時代」  2003.04.25
                                     渡邊誠一郎(環境学研究科地球環境科学専攻)

要旨: 
  地球環境問題を考えるたたき台として,1つの見方を提示する.多くの事項が複雑に絡
みあっているため,解決策は容易には見いだせない.しかし,確実に破局に近づいていく...

1.地球環境問題とは?

有限地球観:
  ・20世紀:人口爆発,エネルギー・資源消費量/排出物の急増 → 地球は限界に.
  ・有限な地球(水,耕地,食糧,化石燃料,鉱物資源,森林... の枯渇)

人口問題:(要因:公衆衛生による死亡率低下,科学技術革新,栄養状態の改善)
  ・アジア・アフリカの途上国で人口増加:貧困層の拡大
  ・中国の一人っ子政策 → 急激な少子高齢化の進行
  ・農村の崩壊(干魃・内戦・AIDS) → 都市の膨張・スラム化(犯罪,汚染)

地球生態系の危機:人類は,その存立基盤である地球生態系の破壊を進めている.
  ・熱帯林の乱伐:非伝統的焼畑,薪炭材過伐,商業伐採,放牧地化←人口増加・貧困
  ・生物多様性の減少:種の絶滅の進行,自然環境破壊,化学物質による汚染・汚濁
  ・環境汚染:環境ホルモン(内分泌撹乱化学物質),酸性雨(SOx),タンカー事故
  ・オゾンホール(フロンガス(CFC)排出に起因,南極上空で顕著).国際規制の成功例
  →生態系の破壊は,地球の物質循環の変化,安定性の喪失,緩衝効果の阻害に繋がる.

人為的な気候変動(異常気象): Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC)
  ・大気中の二酸化炭素分圧の急増:これは人類の化石燃料消費に起因するのは確実.
  ・地球温暖化(世界的な気温上昇):因果関係確認は不十分.
  ・氷河・氷床の後退,海面上昇,生態系変化,マラリア流行域拡大,文化への影響
  ・降水の時間的・空間的偏りの増大 → 干魃・水害の増加 → 食糧生産を直撃

食糧生産:
  ・肉食の問題:同じカロリーを取るのに要する穀物消費量が穀物食に比べ数倍に
  ・化学肥料飼料・農薬漬けで単収増.→土壌汚染,水質汚濁,生態系破壊,BSE
  ・途上国:熱帯林の乱伐 → 輸出用の商業作物栽培,文化破壊,漁獲量減少まで
  ・土壌劣化:砂漠化,断流・湖沼枯渇,土壌侵食,塩類蓄積,連作障害,過放牧

南北問題:先進国の豊かな生活は貧しい国の環境破壊の上に成立:格差拡大
  ・富の不公平な配分:先進国の責務,途上国の開発(貧困からの脱却)優先
  ・新興/復活した感染症の蔓延(AIDS,出血熱,結核,マラリア)←低栄養・開発
  ・先進国からの開発援助が環境問題の悪化に繋がる/有害廃棄物の越境移動
  ・文明の衝突,テロ,国際情勢の不安定化(イラク戦争,石油利権)


                                     
2.では,どうすれば良いのだろうか?

これに対する答えはない.とにかく,考え始めよう!
  ・現状のまま,文明の行方に対して,なるがままに伸展させてゆく〜は,破局への道
  ・科学技術文明の否定:例えば「江戸時代に戻れ」も成り立たない.
  ・ものごとにはトレードオフの関係がある:複数の選択肢と合意形成が重要

持続可能な開発:
  「将来世代の必要性を満たす能力を害することなく,現在の世代がその必要性を満たす
    ことができるような開発」
  「人々の生活の質的な改善を,その生活基盤となっている各生態系の収容能力の限度内
    で生活しつつ,達成すること」
  と,一見明快に規定されている.では,具体的に何をすれば良いのか?

対症療法:リスクアセスメント(許容限度の設定に合意形成が必要)
  ・温暖化による海水面上昇に対応する土木工事,防砂林による砂漠化食い止め
  ・大気/水質汚染対策... ダムや原発の後始末のアセスメント
  ・低品位化石燃料/鉱石から利用技術

科学技術の伸展に期待する?:
  ・積極型の新エネルギー技術(核融合,宇宙発電,メタンハイドレート利用)
  ・バイオテクノロジーによる食糧増産,砂漠緑化:遺伝子操作の問題点
  →循環型社会実現に繋がる技術開発が重要

循環型社会(千年持続学):千年以上続いている技術(正倉院,カナート...)
  ・脱石油:電気,ガソリン,化学繊維,化学肥料,プラスチック...
  ・再生可能資源の活用:バイオマス・エネルギー(CO2は増えない),リサイクル
  ・省エネルギー,エネルギー消費量ミニマム型の社会(大量生産/輸送脱却,LCA)
  ・準定常社会が達成されたとして,そこで人は幸福か,夢と希望は?

政策:お上のお達しではダメ.市民との連携・コミュニケーションによる参加型計画
  ・新エネルギーへの転換を促す施策:技術開発に補助金,環境税,エコ基準
  ・国際協調:南北格差の是正,生態系保護・種の多様性保全,先進国の役割

価値観の変革:一人一人の意識改革:環境コミュニケーション
  ・市場経済の商品をものとエネルギーから情報,文化,思考へとシフトさせる.
  ・変革のための合意形成手法の確立:結果ではなくプロセス重視,司会者が重要
  ・「個人の自由」を制限し「全人類のため」へ.不満の平等化→全体主義の罠に注意

環境学の構築:21世紀創成:名古屋大学大学院環境学研究科/島津康男名誉教授
  ・リアルタイムの学問(予測に基づいて行動を決定,結果をフィードバック)
  ・形式世界としての地球環境把握の限界:対象を切り離すことができない.
  ・近代西欧型自然科学の限界:科学技術文明の転換点/内部観測論
  ・文理融合(将来予測+技術開発+合意形成・政策決定+人間の幸福)
  ・領域境界/学界を超えた知の拡大:非専門家の意思決定の材料

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