三村耕一 研究室
最近の論文紹介
Zhao J. and Mimura K. (2025) Supply of phospholipid precursors and evolution sites on the early Earth by impact. Geochim. Cosmochim. Acta 393, 122-132.
グリセロリン酸(GP)とアシルグリセロール(AG)は、生物の細胞膜の主成分であるリン脂質前駆体です。初期地球におけるGPとAGの合成経路を明らかにすることは、生命の起源を解明する上で大変重要です。本研究では、初期地球で頻繁に起こっていたと考えられる天体衝突に着目し、衝突によってGPとAGが合成されることを模擬実験により検証しました。実験の結果、GPとAGは脱水反応によって合成されるにもかかわらず、水の有無にかかわらず衝突によって合成されることが明らかになりました。このことは、GPとAGの合成が初期地球表層のどこででも起こりえることを示唆しています。さらに、衝突によってできたクレーターは、合成されたGPとAGを集める「暖かい小さな池」に進化し、さらなる化学進化を進める可能性があります。本研究は、天体衝突が初期地球にリン脂質前駆体を供給することで、初期細胞の進化に貢献した可能性を示しました。
Zhao J. and Mimura K. (2025) Supply of phospholipid precursors and evolution sites on the early Earth by impact. Geochim. Cosmochim. Acta 393, 122-132.
グリセロリン酸(GP)とアシルグリセロール(AG)は、生物の細胞膜の主成分であるリン脂質前駆体です。初期地球におけるGPとAGの合成経路を明らかにすることは、生命の起源を解明する上で大変重要です。本研究では、初期地球で頻繁に起こっていたと考えられる天体衝突に着目し、衝突によってGPとAGが合成されることを模擬実験により検証しました。実験の結果、GPとAGは脱水反応によって合成されるにもかかわらず、水の有無にかかわらず衝突によって合成されることが明らかになりました。このことは、GPとAGの合成が初期地球表層のどこででも起こりえることを示唆しています。さらに、衝突によってできたクレーターは、合成されたGPとAGを集める「暖かい小さな池」に進化し、さらなる化学進化を進める可能性があります。本研究は、天体衝突が初期地球にリン脂質前駆体を供給することで、初期細胞の進化に貢献した可能性を示しました。
有機物の化学進化を探る ―有機物を単なる炭素化合物とみなして―
私たちのグループは、“有機物”を“生命活動によってつくられる物質”としてとらえる従来の地球化学の研究はもちろん、“有機物”を“単に炭素を含む化学物質”と強く意識することで新しい地球化学分野の開拓をめざしています。研究テーマは、「隕石に含まれる有機物の研究」、「有機物の衝撃実験」、「有機物の高圧実験」、「始生代生命の有機化学的研究」です。実際の研究試料としては、隕石、地球の岩石、室内実験の生成物などを扱っています。
隕石に含まれる有機物の研究
-宇宙の歴史を有機物から解明する-
ある種の隕石には様々な種類の有機物が存在します。これらの有機物は様々な宇宙環境(星間分子雲、太陽系星雲、隕石母天体など)の情報を持っていると考えられています。有機物は温度・圧力・酸素分圧の変化に敏感なため、隕石中の無機鉱物からは得られない情報を持っている可能性があります。マーチソン隕石とアエンデ隕石という炭素質隕石には多種多様な有機物が含まれています。私たちは、これらの隕石から、有機溶媒に溶ける有機物(可溶性有機物)と有機溶媒に溶けない有機物(不溶性有機物)をとりだし、その化学組成や同位体比を調べています。これまでの分析によって、隕石中の有機物はすべて同じ環境でできたのではなく、いくつかの違った環境でできたものの集まりであることがわかってきました。今後、そのいくつかの環境とはどんな環境だったのか?を明らかにしていきます。
有機物の衝撃実験
-天体衝突が生命誕生に果たした役割を検討する-
地球の生命の原料は?そして、生命はどのように誕生したのでしょうか?最近、地球生命のもとになった有機物は隕石や彗星によってもたらされたという考え方が有力になりつつあります。ある種の隕石には、生命にとって重要な物質(アミノ酸、リン酸、脂肪酸など)だけでなく、多種多様な有機物が存在します。私たちは、隕石や彗星が地球に衝突した際に発生する“衝撃エネルギー”に注目しています。衝撃エネルギーは物質を高温・高圧状態にするため、隕石や彗星に含まれる有機物をより生命誕生に有用な物質へと変化させるかもしれません。現在、隕石や彗星の地球への衝突を模擬した実験を行い、天体衝撃によって「生命の誕生に必要な有機物ができるか?」「天体に存在していた有機物が分解せずに生き残れるか?」を検討しています。


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Mimura K., Okamoto M., Nakatsuka T., Sugitani K., and Abe O. (2005)
Mimura K. and Toyama S. (2005)
Mimura K., Toyama S., and Sugitani K. (2005)
Mimura K., Madono T., Toyama S., Sugitani K., Sugisaki R., Iwamatsu S., and Murata S. (2004)
Mimura K., Arao T., Sugiura M., and Sugisaki R. (2003)
Mimura K., Kato M., Ohashi M., and Sugisaki R. (1998)
Mimura K. (1995)
Mimura K., Ohashi M., and Sugisaki R. (1995)
Sugisaki R., Mimura K., and Kato M. (1994)
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有機物の高圧実験
-氷衛星における生命誕生の可能性を探る-
圧力は温度と同様に有機物の反応を促進させることが知られています。私たちは、高圧環境における有機物の挙動を調べ、圧力がアミノ酸を重合させてより複雑な3量体まで生成させることを確認しました。高圧環境は地球の内部はもちろん、地球外惑星とそれらの衛星の内部にも存在します。特に、天体表面が氷に覆われている氷衛星の高圧環境には大量の液体の水(内部海)が存在することが知られています。そして、氷衛星の形成史から推測して、内部海には多量の有機物の存在、さらには生命存在の可能性も指摘されています。現在、内部海の環境を模擬した実験を行い、内部海で起こる有機物の反応が生命誕生のためにどの程度重要であるかを検討しています。
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Shinozaki A., Kagi H., and Mimura K. (2017)
Takahashi S., Kagi H., Fujimoto C., Shinozaki A., Gotou H., Nishida T, and Mimura K. (2017)
Shinozaki A., Mimura K., Nishida T., Inoue T., Nakano S., and Kagi H. (2016)
Fujimoto C., Shinozaki A., Mimura K., Nishida T., Gotou H., Komatsu K. and Kagi H. (2015)
Sugitani K., Grey K., Nagaoka T., and Mimura K. (2009)
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始生代生命の有機化学的研究
-始原生命の生態を探る-
地球の始原生命はどんな環境で生活していたのでしょうか? そして、どんな生物だったのでしょうか? オーストラリア北西部にあるピルバラ地域には、始生代にできたチャート層が広く分布しています。このチャート層には所々に炭質物を多く含んだ真っ黒な層が見られます。この黒い層から、名古屋大学の杉谷健一郎教授と私たちは微生物の化石を発見しました。その後の地質調査と化学分析によって、この地層は今から約 34 億年前に浅い海でできたことがわかってきました。現在、化学分析を進めて、化石を形作っている炭質物の化学的特徴を明らかにしつつあります。はたして、34 億年前に生きていたのはどんな生物だったのでしょうか?化石を詳しく調べると、球体の化石が多いことがわかりました。さらに、それらの球体がたくさん連なっている化石も見つかり、34億年もの昔に、かなり複雑な生態系ができていたことがわかります。
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Sugitani K., Mimura K., Nagaoka T., Lepot K., and Takeuchi M. (2013)
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Sugahara H., Sugitani K., Mimura K., Yamashita F., and Yamamoto K. (2010)
Sugitani K., Grey K., Nagaoka T., and Mimura K. (2009)
Sugitani, K., Grey, K., Nagaoka, T., Mimura, K., and Walter, M.R. (2009)
Sugitani K., Grey K., Allwood A. C., Nagaoka T., Mimura K., Minami M., Marchall C. P., Van Kranendonk M. J., and Walter M. R. (2007)
Sugitani K., Yamashita F., Nagaoka T., Yamamoto K., Minami M., Mimura K., and Suzuki K. (2006)
Sugitani K., Mimura K., Suzuki K., Nagamine K., and Sugisaki R. (2003)
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