2026.2.12
「地球環境科学と私」第六十二回は地球史学講座 加藤 丈典さんによる 鉱物から宇宙の起源を探る です.
私は今二つのことに興味があります。ひとつは長年続けてきた電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を中心とする鉱物の微小領域分析で、もう一つは、鉱物を用いた未知粒子探索であるパレオディテクターです。どちらも鉱物を扱いますが、目的も背景も異なる別の研究です。
EPMAは、細く絞った電子ビームを試料にあて、そこから出てくる特性X線を分光して元素を同定・定量する分析装置です。ミクロン領域で化学組成を決められるため、地球惑星科学の基礎的な道具として広く使われています。私は、電子が原子に衝突してX線が発生するまでの素過程を正面から突き詰めていくことに関心があります。より正確に、より信頼できる分析の確立や、これまでにない新たな分析手法の開発を目指しています。
一方、パレオディテクターは素粒子宇宙物理学のコンテキストから生まれたアイディアです。鉱物を「長時間露光の受動型検出器」とみなし、鉱物中に残った微小な損傷(トラック)を読み出して、暗黒物質など未知の粒子が残した痕跡を探します。この「鉱物に残るトラックを探す」というアイディア自体は新しいものではありません。1980年代には白雲母を用いてモノポール探索が行われています。近年再び注目されるようになり、現代の理論・実験技術を用いて未知粒子の直接探索に用いるための研究が加速してきました。
ただし、地球惑星科学の側ではパレオディテクターが十分浸透した分野とは言いがたいのが現状です。この試みで重要になるのは、地球惑星科学による「検出器の仕様書作成」です。人工的な探索実験であれば検出器の仕様はわかっています。しかし、鉱物にはそのような仕様書は存在しません。「いつから記録を始めたのか」「どんな熱履歴でトラックが消えるのか(アニーリング)」「微量元素や欠陥、結晶方位はトラックの形成・観察にどう影響するのか」。こうした問いに答えられなければ、トラックを見つけても“何を意味するのか”が決まりません。
地球惑星科学の道具箱で鉱物に刻まれた情報を読み解き、検出器としての仕様を明らかにして、素粒子宇宙物理学が求める条件に落とし込むことで、「天然鉱物を検出器として使う」研究を現実の測定へ近づけたいと考えています。これにより、地球惑星科学と素粒子宇宙物理学の融合研究を前進させていきます。