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「地球環境科学と私」第六十回

2025.12.4

「地球環境科学と私」第六十回は地球惑星ダイナミクス講座 黒田 真奈加さんによる 海の地震研究との出会い です.


海の地震研究との出会い 地球惑星ダイナミクス講座 黒田 真奈加

この記事の執筆にあたり、今までの私の研究人生(といってもまだ数年しかないのですが…)を振り返ってみようと思います。特に、研究に至るまでの歩みや私が考えてきたことを記したいと思います。


私の研究は、巨大地震が発生すると危惧されている南海トラフの地下構造を電磁気で視ることです。具体的には、船で海に出て、海底に測定機器を置き電磁場を測定、測定したデータを解析しています。そして地下に存在する「水」の分布を視ることで、様々な規模の「地震」との関係を明らかにしたいと考えています。


私が地震に興味を持ったきっかけは、東北地方太平洋沖地震の発生でした。当時、小学4年生。兵庫県の瀬戸内海沿岸部に住んでいたこともあり、下校時の校庭に集合している間、津波注意報が鳴り響き、不安な空気が漂っていたのを覚えています。家に帰ると、地震の揺れによって建物は崩れ、津波に建物や自動車が飲み込まれている映像がテレビから流れてきました。このとき、日々の生活を一変させる地震や津波の恐ろしさを感じると共に、なぜ地震が起きるのだろうと思ったのです。これが私の地震研究の始まりともいえるのではないでしょうか。


同時に、テレビから伝わる被災者の「(特に避難情報や被災支援などの)情報がなくて困っている」という声を聞き、はじめはアナウンサーや新聞記者などの情報を伝える仕事をしたいと思っていました。しかし、情報を伝えるとしても「自分自身が物事を理解していないと発信する自分の言葉に信憑性がない」と考えるようになり、地震に関して勉強したいと思うようになりました。そして、大学進学時には地震の研究を志すことになります。


地震研究を行いたいと考えていた私にとって、学部2年次の学術研究船での乗船経験がきっかけとなり海の研究に思いを寄せることになります。当時コロナ禍真っ只中、何かに挑戦したいと思っていたところ、地震研究を行う教授から調査航海乗船者募集のお知らせを受けて、参加を希望し乗船が決まりました。この調査航海の目的の一つは、東北沖の日本海溝周辺に設置した海底電位差磁力計(Ocean Bottom Electromagnetometer; 以下OBEM)の回収でした。OBEMは海底設置型の電場・磁場の測定機器で、自重によって海底に着底し測定を開始、測定終了後錘を切り離し自身の浮力で海面まで浮上します。この測定機器が運用されているのを船上で目の当たりにして、我々が直接到達できない海底6000m超の深海において、遠隔で電磁場の測定ができていることに感銘を受けました。


その後、海溝付近で発生する地震は地下に存在する水が影響するという仮説を知りました。プレート境界などの断層に流体が入り込むと断層の法線応力が下がり、断層が滑りやすくなるため地震が発生するのではないかという考えです。このとき私は、身近な存在の「水」が日々の生活を一変させる「地震」の発生に関与していることに衝撃を受け、これらの関係について研究したいと思うようになります。


OBEMで取得された電磁場データは、電磁誘導の原理を用いることにより非破壊で地下構造を視ることができます。一般に、測定された電磁場の大きさは地下の電気の流れにくさによって変動し、地層に水が多く含まれると電気が流れやすくなります。そのため、電磁場データから地下の水の分布を推測することができるのです。このことを知った私は、OBEMを使って「海で」「地震に関する」研究を行いたいと強く思うようになりました。


そして学部4年次に志望していた地震に関する研究室に配属され、晴れてOBEMを用いて取得された電磁場データを解析することになりました。ここから、本格的に海域の地震研究を行うことになります。複数の調査航海に乗船し、測定データの解析手法の開発や地下構造モデルの推定を行うなど、現在も博士後期課程に在籍し研究を続けています。


こうしてこれまでを振り返ってみると、私が直接見て感じたことが今の研究につながっているように思います。20数年しか生きていない私ですが、様々な経験やその時の思考が自分自身を豊かにすると考えています。その点、名古屋大学は地球科学に関して複数の視点から研究されており、視野を広げるにはぴったりの場所であると感じています。物事の全てが順調に行くことは少なく、想定していたようにいかないこともありますが、それもまたいい経験だと思って、研究に邁進したいと思います。


地球環境科学専攻 地球環境科学専攻

左図:学部2年次に参加した学術研究船「白鳳丸」の様子
右図:船尾から投入される海底電位差磁力計(OBEM)の様子





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