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「地球環境科学と私」第五十四回

2025.5.10

「地球環境科学と私」第五十四回は生態学講座 小出 胤樹さんによる ウミネコの365日を追う です.


ウミネコの365日を追う 生態学講座 小出 胤樹

突然ですが、下の写真(図1)に写っている無数の白い点はなんだと思いますか?その答えはウミネコです。ここ青森県八戸市の蕪島では年に1回、無数のウミネコが一堂に会し繁殖を行います。その小さな島に3万羽ほどにものぼるウミネコが大集合する蕪島はその立地の良さもあり多くの観光客が訪れています。島の中心にある神社からは島とウミネコがひしめく様子が一望できるので是非足を運んでみてください。蕪島のウミネコは人間との距離がとても近く、島の中心にあり観光客が訪れることのできる境内にも多くの個体が巣をつくっています。ここまで人と鳥との距離が近い場所はほかにないでしょう。繁殖期の4~7月ごろから一変、繁殖が終わり雛が巣立つとあんなにウミネコが居た蕪島はもぬけの殻になります。では繁殖期以外の時期はどこで何をしているのでしょう。私はその時期のウミネコの移動を追っています。


地球環境科学専攻

図1:蕪島で繁殖する無数のウミネコ(撮影:井上漱太氏)


ウミネコは季節によって繁殖地と越冬地を往復移動する「渡り鳥」です。渡り鳥は季節に応じてより良い環境や餌を求めて数百kmから数千kmを移動します。これは翼を持つ彼らの特権でしょう。では翼を持たない我々が渡り鳥を追跡するにはどんな方法があるでしょうか。それは鳥にGPSを取り付けることです。これはバイオロギングと呼ばれる、動物に小型の記録計(ロガー)を装着し動物自身にデータを集めてもらう手法で人間が観察するだけでは得られない情報を得ることができます。フィールドでは様々な調査を行っていますが、バイオロギングの調査では抱卵期のウミネコを捕獲してロガーを装着しています。また、渡りを記録して蕪島に帰ってきた個体のデータの回収も行います。この記事を書いている時も調査シーズンの真っ只中で全身にウミネコを感じながら生活する日々を送っています。


地球環境科学専攻

図2:ロガーを装着したウミネコ(撮影:杉山響己氏)


GPSのデータを見てみると蕪島のウミネコは繁殖期直後の移動経路に大きく分けて北海道へ北上、蕪島周辺に留まる、関東から関西にかけて南下する3パターンあることがわかってきました。また、GPSのデータからはkm単位の移動だけではなく、数m〜数十m単位の詳細な利用場所も知ることができます。先ほどの3パターンの移動経路によって個体が訪れている場所が異なっていました。特に南下する個体は養殖場を頻繁に訪れており、ほかの移動経路と異なっていました。色々な個体の移動データを見てみるとウミネコの餌はかなり人間に頼っているようにも見えてきます。過去の研究からウミネコは海の魚以外にも虫や加工食品など様々なものを食べることがわかっています。個体ごとによって好みの餌が異なり、それを求めて移動しているかもしれません。 我々が直接見ることのできる動物の行動は彼らにとってほんの僅かな時間に過ぎませんが、近年技術の進歩によりたくさんの動物の行動がバイオロギングによって明らかにされつつあります。今日見かけた動物がどこから来てどこへ行くのか、そんなことを考えてみませんか。








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