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「地球環境科学と私」第四十三回

2024.2.28

「地球環境科学と私」第四十三回は地球史学講座 木元 菜奈子さんによる 先史時代を語る貝たち:ヨルダンの貝殻アクセサリー研究 です.


先史時代を語る貝たち:ヨルダンの貝殻アクセサリー研究 地球史学講座 木元 菜奈子

私は約1~2万年前のヨルダン周辺の遺跡で見つかる、海の貝殻でできた装飾品について研究しています。昔の人々は、貝殻に孔を開けてビーズにし、そこに紐を通すことでネックレスやブレスレットのように使っていたと言われています。


実はこのような貝殻ビーズは、単におしゃれだけを目的として使われたわけではなかったようです。「集団同士で社会関係を結び維持するためのツール」として、また「社会的な意味を表すシンボル」などとしても利用されていたと考えられています。


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図1 貝殻製装飾品の復元図(貝殻は実際にヨルダンの遺跡で出土したもの)

私はこうした点に興味を持ち、現在は主に「当時の貝殻ビーズの流通や、それに伴い起こった人間の交流が、時代とともにどう変化していったのか?」について調べています。当然ですが、当時にタイムスリップして実際に確かめるわけにはいきませんし、人の交流という形の無いものを検証するのは難しいテーマだと感じます。しかし、それでもなんとか遺跡に残された証拠品から情報を引き出せないか、日々考えながら研究を行っています。


普段は研究室の中で文献や出土品を調べることがほとんどなのですが、ついに昨年の8~9月、ヨルダンでの発掘調査に参加することができました。私にとってはこれが人生初の海外経験でもあり、正直行くまでは不安もありましたが、日本とまったく異なる環境・文化に触れることの面白さや、現地の方々とも協力しながら調査を進めることの楽しさを実感する中で、そのような不安もなくなっていきました。


発掘調査では、毎朝4時ごろに起きて支度し、宿舎を出発します。日中は40℃を超える暑さが続くため、発掘作業は午前中に終わらせてしまいます。宿舎から車で約1時間かけて調査対象の遺跡がある山(緑がほぼないので、山というより巨大な岩場?)に移動し、そこからさらに、調査道具を抱えて急峻な岩場の中を30分ほど登っていきます。




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図2:(左)調査対象の遺跡に向かう道のり (右)一緒に調査道具を運んでくれるラクダたちもいます


そんな準備運動(?)の末ようやく遺跡にたどり着いたところで、やっと発掘調査が始まります。現場では、発掘調査というかっこいい響きに反して、地味な肉体労働もたくさんあります。炎天下の中ひたすら地面を掘り下げたり、掘った土を篩(ふる)って、砂埃にまみれながら細かな遺物を拾い上げたり…それでも狙い通りのものが得られることばかりではありません。しかし、これまで自分が扱っていた分析資料がこんな作業の中で得られていたのだ、数万年前まさに同じ場所で昔の人たちが残した痕をいま私たちが拾い上げているのだ…と思うと感慨深い気持ちになって、より分析資料への愛着が沸いてきます。


また発掘の他にも、ビーチで現生の紅海の貝殻を拾いまくって遺跡の出土品と比べる、という調査も行ってきました。個人的にヨルダンでとても楽しかった思い出のひとつです。


ビーチでは歩き回りながら目に入った貝殻をひたすら集めていくのですが、遺跡からは1cmに満たないような小さな貝殻も多く見つかるので、時にはうずくまって目を凝らしながら、いろいろな種類の貝殻を探していきます。遺跡で出土するのと似た貝殻を見つけるたび興奮してニコニコしていた気がしますので、傍から見ればかなり怪しい外国人だったに違いありません。最終的には、調査メンバーのみんなで力を合わせて450点以上の貝殻を集めることができました。こんなに拾ったら分析が大変だな…と思いつつ、チャック袋一杯にたまった貝殻たちを見て、またニコニコする私でした。


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図3 (左):ヨルダンのアカバビーチで貝殻採集を行った時のようす (右):調査で集まった貝殻たち

ところで、私の場合大学進学当初はこのように自分がヨルダンに行くことになるとは予想もしていませんでした。幼い頃から考古学や日本の遺跡が好きで、高校では理系に進んだもののやっぱり考古学もやりたいという思いが捨てきれず、なんとか近いことが研究できそうな大学を探した結果、名大の地球惑星科学科にたどり着きました。現在所属している門脇研究室に入ったのは、研究室見学の際にヨルダンの貝殻ビーズを実際に見せていただいたことがきっかけです。孔や顔料など当時の利用の痕跡が残った資料を前に、ぜひこれを自分の手で分析してみたい、と思ったことを覚えています。


私が思う地球環境科学専攻の魅力は、文系や理系といった括りにとらわれることなく、さまざまな興味やバックグラウンドを持った人を受け入れる土壌があるところです。こうした環境だからこそ、結果的に「元からの考古学への興味」と「貝殻資料との偶然の出会い」がうまく重なって、今の研究に行きつくことができたのだと思います。


当専攻への進学に迷っている方の参考になれば幸いです。

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