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「地球環境科学と私」第四十一回

2023.12.7

「地球環境科学と私」第四十一回は地球惑星ダイナミクス講座 橋本 千尋さんによる 沈み込みか衝突か? です.


沈み込みか衝突か? 地球惑星ダイナミクス講座 橋本 千尋

地球科学を学んだことのある学生の皆さんには、表題のような形式的な分類は少し退屈に感じられるかも知れません。しかし、視点を変えると、違って見えることがあります。このコラムでは、プレート収束帯に関する私のこれまでの研究を振り返りながら、そのような「視点」について考えてみたいと思います。


通常、隣り合う二つの大陸プレートの収束運動では、一方が一方の下に沈み込むことができずに「衝突」するとされます。しかし、実際の衝突帯や沈み込み帯を調べると、単純ではない実態を知ることができます。インド-ユーラシア大陸衝突帯では、インドプレートの体積の半分は沈み込んでいる、と最近の研究で見積もられています。一方で、ペルー-チリ沈み込み帯や東北日本の沈み込み帯で観測される上盤プレートの短縮は、一見、奇妙に思われます。下盤プレートが近付いてきた分だけ沈み込んで上下がすれ違えば、上盤が短縮する必然性は無いからです。


このような状況を考えると、プレート運動によって互いに近付く成分のうち、一部は沈み込みによって、残部は上盤の短縮によって解消されている、と理解することができます。つまり、一つの収束帯システムの中に、沈み込みと衝突との両方の作用が共に存在していることになります。このアイデアから、2006年の論文で、私たちは、「部分衝突」の概念を提唱しました。



図は、プレート収束帯を模式的に表わしています。図Aのように、プレート沈み込みは、連続体を二つに分割する境界面上の定常的なすべりとして表現されます。図Bのように、境界面上の一部がすべらずに永久に固着したままであれば、下盤側のその部分は、沈み込めずに上盤プレートと共に表層部に残留することになります。これが衝突による地塊の突入の表現です。見方を変えて、もしも、この固着が地震発生域の表現であればどうでしょうか?プレート境界面の固着によるすべり遅れが地震発生に伴って完全に解消されれば、長期的な平均として、図Aと同等の沈み込みになります。一方で、固着している期間に、プレート内地震などの非弾性歪みが周辺で発生し、固着によって蓄えられた弾性歪みエネルギーの一部が散逸するとします。このときには、プレート境界地震ですべり遅れを完全に解消する必要がありません。すべりが不完全であることによって残されたすべり遅れの成分が衝突成分と考えられます。長期的な平均として、取り残されるすべり遅れが1割であれば、その場所の衝突率は0.1になります。この例のように、部分衝突は、プレート境界面上の衝突率の分布として表現されます。


論文が出版されてから10年以上を経た2018年に、私たちは、観測データから衝突率の分布を推定する手法を開発しました。これは、衝突率として定義した量が、実測可能になったことを意味します。プレート内のテクトニック現象は、プレート間相互作用に起因します。また、プレート境界地震などのプレート境界面上の現象は、プレート間相互作用の直接的反映です。プレート間に作用する力の数学的に等価な表現である衝突率を通して、これらの多様な現象の因果関係を統一的に解明する新しいアプローチが可能になるかも知れません。


新しい概念を適用しても、既知の内容を別の表現で繰り返すのみでは、意義に欠けます。新しい視点によって、理解がより深い到達点に及ぶとき、その概念の学術上の価値が生まれるのではないかと考えます。自然科学の基本は、知的好奇心に基づく真理の探究です。地球科学に於いても、学問分野を閉塞させず、幅広くこれを維持してゆくためには、魅力的な課題を創出し続ける必要があります。手付かずの未知や長く未解決のまま残る問題は、多くの人の興味を惹き付けます。同様に、学問の広がりや深まりをもたらす新しい視点もまた、魅力として寄与するでしょう。そのような期待をしながら研究を続けています。


学生の皆さんにとっての魅力的な課題とは何でしょうか?ゆっくりと考えてみてください。



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