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「地球環境科学と私」第三十回

2021.6.15

「地球環境科学と私」第三十回は地質・地球生物学講座 土屋 祐貴さんによる 太古の深海水族館 です.


太古の深海水族館 地質・地球生物学講座 土屋 祐貴 

皆さんは「深海魚」を見たことがありますか?最近はテレビ番組や博物館の特別展などで深海魚が頻繁に取り上げられており、それらを目にする機会も多いのではないかと思います。スーパーの鮮魚コーナーでもキンメダイやアカムツ(ノドグロ)などの深海魚を時々見ることができます。このように深海魚は私たちにとって意外と身近な存在です。


地球環境科学専攻

図1:「深海魚」の耳石化石。A:ギンハダカ科ウキエソ属魚類の耳石化石、B:ハダカイワシ科ハダカイワシ属魚類の耳石化石。三重県津市西部にて採取。

私は現在、そんな案外馴染み深い存在である深海魚の研究をしております。ただし、私が対象としているのは、今現在生きている深海魚ではなく、過去の地球上に暮らしていた深海魚です。「過去の深海魚ということは、尾頭付きの化石を研究しているのか!」と思われるかもしれませんが、実は私が取り扱っているのは皆さんが想像するような全身の化石ではなく、「耳石」という魚の一部分の化石です(図1)。耳石とは、硬骨魚類の内耳にある炭酸カルシウムを主成分とする組織で、魚の聴覚や平衡感覚に関わっていると考えられています。耳石は魚の種類ごとに特有の形状をしており、それらの化石は体全体の化石と比べて地層中から豊富に産出するので、耳石の化石は過去の海洋にどのような魚類が生息していたかを知るうえで非常に有用な研究対象となるのです。私は現在、この耳石化石を用いて今から約1700万年から1600万年前頃の日本周辺にどのような深海魚が生息していたかを明らかにしようとしています。今回は、そのような耳石を対象に、私が日々どのように研究をしているかを簡単にご紹介したいと思います。


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図2:野外調査の様子。三重県津市長野川沿いにて。

まず、耳石の化石を得るためには野外に出て試料採取を行う必要があります(図2)。耳石化石は大型化石と異なり、現地で一個一個の化石を取り出すことが難しいので、化石が含まれていそうな岩を塊ごと採取します。ハンマーやバールを用いて露頭から岩を削り出すのですが、これがなかなか大変な作業です。私の指導教官の先生は短時間で大量の岩石を採取されるのですが、私は岩の採取があまり上手くなく、いつも四苦八苦しています。指導教官の先生の姿を見て「いつかは自分もあのようになるぞ!」と毎度思うのですが、未だに達成できておりません。まだまだ修行が足りないのかもしれません。このようにして岩石を採取したら、次にハンマーを使って岩を数センチ角に砕き、自然乾燥と水に浸す作業を繰り返してそれらを細粒化していきます。一地点につき数十キログラムから百キログラム程度の岩を分解する必要があるので、これもまた骨が折れる作業になります。岩を分解すると大量の泥が発生するのですが、その泥を見ると時々、「この泥は1700万年前の海底に溜まった泥なのか…」と妙に感慨深く思われる時があります。まるでタイムカプセルの中の物を手に取っているような気分になるにですが、冷静に考えるとやはり泥はただの泥です。そんなに感動を覚えるようなものではない気もしてきます。そのようなことを考えながら処理を終えると、次に耳石化石の拾い出し作業に移ります。粒子状になった試料をバットの上に撒き(図3)、顕微鏡を使って耳石化石を探します。何時間も顕微鏡と格闘しても耳石化石が数個しか集まらないこともあり(場合によっては全く集まらないことも…)、ここでも心が折れそうになります。ひたすら粘り強く顕微鏡を覗くことではじめて耳石化石を集めることができるのです。そして、集まった耳石を論文や図鑑、データベースと比較し、種類を同定していきます(これもまた結構大変な作業です)。ここまで終えて、ようやく過去の海にどんな魚が住んでいたのかが明らかになります。


以上、ただただ苦労をしているという話ばかりになってしまいましたが、研究を通して素晴らしい経験をすることもできます。集まった耳石化石を見て1700万年前の深海の様子を思い描くと、まるで太古の深海水族館を見学しているような気分になれるのです。そこにはチョウチンアンコウやリュウグウノツカイなどの有名な魚の姿はありませんが、ハダカイワシやウキエソの仲間といった小型な遊泳性の深海魚やソコダラという底生の深海魚が繁栄していた深海の様子が想像されます。耳石を通して過去の深海の様子を垣間見る、これが楽しくて現在まで研究を続けてこられたのかもしれません。

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図3:バットの上に砂を撒いた様子。



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