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「地球環境科学と私」第二十一回

2020.8.12

「地球環境科学と私」第二十一回は地球環境システム学講座 宮坂隆文さんによる 実は流れていた名大の血 です.


実は流れていた名大の血 地球環境システム学講座 宮坂隆文 

私は現在、砂漠化地域や保護地域における自然資源管理について学際的に研究を行なっています。例えば砂漠化という問題は、地球規模課題であると同時に極めて局所的な現象でもあり、その主な原因は地域の生態システムと社会システムの不整合にあります。そのため、砂漠化へ対処する上で両システム及びそれらの相互作用の理解は不可欠であり、そのためのアプローチは必然的に学際的になります。このような、○○学という既存の枠組みから対象を捉え研究を深めていくのではなく、対象とする問題を起点として必要なアプローチを定め、習得、統合していく姿勢は、学部時代に身についたと考えています。


私は慶應義塾大学総合政策学部(双子の学部と言われる環境情報学部とあわせて、所在する湘南藤沢キャンパスの略称からSFCと呼ばれることが多く、以下そのように略します)で学び、その後東京大学大学院農学生命科学研究科へ進学しました。上述した学部時代に得た姿勢を保ちつつも、研究者としての素養は大学院で身につけましたので、「SFC生まれの東大育ち」という感覚を持っていました。しかし、名古屋大学に着任した後、実は「SFC生まれ」の部分に名大地球科学の血も流れていることに気が付きました。前置きが長くなりましたが、今回はそのことについて書きたいと思います。


SFCは一般的な基礎積み上げ型ではなく問題発見・解決型の教育を掲げていました。学部2年生、早い人は1年生から研究室に入り、具体的な研究プロジェクトに参加する中で自身の課題を発見し、その解決のために必要な知識や技術を研究室や多種多様な授業群(生物、情報、経済、法律、建築、デザインなど何でもあり)から習得するというものです。基礎学力が身につきづらいといった批判があるなど課題もありましたが、学生一人一人がプロジェクトベースで自らのカリキュラムを構築するという方式が私には合っていたように思います。研究室も複数所属することが可能で、私も二つの研究室に出入りしていましたが、そのうちの一つが福井弘道先生(現中部大学)の空間情報科学の研究室でした。地理情報システムやリモートセンシングに興味をもち研究室の門を叩いたのですが、福井先生からは他にも環境問題に対する総合的なアプローチとその重要性を学びました。例えば、地球の統合的な時空間情報基盤としてのデジタルアースの構築に向けた取り組みや、地球を物理系–生態系–人間系のトータルシステムとして捉えるシステム思考、また統合研究では個別分野の専門家をただ集めてもダメで、複数分野を各分野80%の習熟度で良いので一人でカバーできる人材が必要であるといったお話も記憶に残っています。問題発見・解決を志向する非常に多様性の高いSFCの文化と、福井先生からの学際的システムアプローチの教えが相まって、私のような分野というものを全く意識しない研究者が生まれたのだと思います。なお、もう一つの所属研究室での経験や、大学院で自由に研究させていただいたことなども私の研究志向に大きく影響していますが、本筋から逸れますので割愛します。


さて、以上の思いから「SFC生まれ」という意識を持っていたのですが、福井先生の教えは福井先生の師である島津康男先生の影響も強いということを、恥ずかしながら名古屋大学に着任してから知りました。島津先生は名古屋大学の地球科学科(現地球惑星科学科)において、Seamless Earth Science(SMLES、縫い目なしの地球科学)という研究グループを創設し、細分化された地球科学の各分野だけでなく、将来を見据え人間社会活動をも含めて総合的に地球を捉えるという研究に長年取り組まれた方です。私は大学院時代、他の学生から「一人学際」と呼ばれることがありましたが、これも島津先生が提唱した言葉でした。また、島津先生は「学生には既成のdisciplineに住んでいるような気分をおこさせてはいけない」という言葉も残されていますが、私もまさにそのような気分をおこしたことが良くも悪くも一度もありません。島津先生が昨年ご逝去されるまで、残念ながら一度もお目にかかる機会はなかったのですが、福井先生を通じて多少なりともその教えが私にも生きているようにおこがましくも感じています。


地球環境科学専攻

私が取ってきた異なる研究アプローチの例:(a)植生・土壌調査、(b)室内実験、(c)社会調査、(d)ワークショップ、(e)各種調査・実験とGIS、リモートセンシングの統合による社会–生態システムモデルシミュレーション


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