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「地球環境科学と私」第十三回

2019.7.17

「地球環境科学と私」第十三回は地球環境システム学講座教授 山口靖さんによる ASTER打ち上げ20周年に想う です.


ASTER打ち上げ20周年に想う 地球環境システム学講座 山口靖

Advanced Spaceborne Thermal Emission and Reflection Radiometer (ASTER)は、米国航空宇宙局(NASA)の地球観測衛星Terraに搭載された日本製の画像センサである1)。ASTERは、可視・近赤外~短波長赤外~熱赤外域の幅広い波長域を15~90mの高い空間分解能で撮像する画像センサで、森林・氷河・サンゴ礁などの環境変化の監視、都市・農地などの土地被覆変化の解析、火山噴火・洪水・大規模地滑りなどの自然災害の被害把握、地質マッピングや地下資源探査など様々な分野で利用されている。ASTERを搭載したTerra衛星は、1999年12月18日に打ち上げられ、本年12月に打ち上げ20周年を迎える。筆者は現在、日米ASTERサイエンスチームの日本側リーダを務めているが、ASTERサイエンスチーム会議は1990年に第1回が開催されて以来、本年6月に東京で開催された会議が第50回目であった。この節目となる機会にASTERプロジェクトを振り返ってみたい。


NASAは、地球温暖化などの環境変動を科学的に実証するため、1990年前後に「惑星地球へのミッション(Mission to Planet Earth)」というプログラムを開始した。このプログラムの中で人工衛星による地球観測データの収集・解析・配布は、Earth Observing System(EOS)によって実施する計画であった。Terra衛星はEOS計画の一環をなすもので、当初はEOS-AM1と呼ばれていた。地球規模での環境変動に起因する陸域、海域、生物圏、雪氷圏などの時間的な変化は、僅かである可能性が高く、観測期間を長く取ることによって顕在化する変化を検出しようとした。このため当初NASAは、5年寿命の人工衛星を午前軌道に3機(EOS-AM1, 2, 3)、午後軌道に3機(EOS-PM1, 2, 3)の合計6機打ち上げ、5年×3機=15年間に亘って観測を継続する予定だった。しかし、予算面の制約から実際に打ち上げられた主要な衛星は、午前軌道のTerra(EOS-AM1から改称)と午後軌道のAqua(EOS-PM1から改称)のそれぞれ1機ずつとなってしまった。このTerraとAquaが、両者とも15年を超えて現役で活躍しているのは、嬉しい誤算であった。


Terra衛星には、日本製のASTER以外にNASAが開発したMODIS、MISR、CERES、カナダが開発したMOPITTの合計5つの観測機器が搭載されており、一部のサブシステムが停止したものもあるが、5つ全てが現在も観測データを取得し続けている。厳しい宇宙環境下で20年間大きなトラブルもなく運用が続いているのは、衛星本体と観測機器の設計・製作・運用の優秀さを示している。私が知る限り、日本が打ち上げた人工衛星で20年以上の運用実績を持つのは、1986年打ち上げの「あじさい」、1989年打ち上げの「あけぼの」、1992年打ち上げのGEOTAILしかなく、いずれもスピン安定の科学衛星である。これに対してTerraは、3軸制御の大型の極軌道衛星で、20年に及ぶ運用実績は特筆に値する。Terraの打ち上げ時の質量は4,864 kgもあった。現在話題の「はやぶさ2」の打ち上げ時質量が609 kg、東京大学超小型衛星センターとアクセルスペース社が打ち上げた超小型衛星「ほどよし1号」が60 kgであるから、Terraの巨大さが分かる。最近の超小型衛星ブームから見れば、一時代前の“大艦巨砲主義”の衛星かもしれないが、その耐久性は自慢して良いであろう。実際にNASAは、Terra衛星のことをEOS計画の旗艦(Flag Ship)と呼んでいる。


ASTERの詳細な観測性能要求は、日米ASTERサイエンスチームの主導で1990年代前半に決められた。当時私は工業技術院地質調査所に勤務する若手研究者であったが、一緒に観測性能を検討した米国側にはリモートセンシング分野の権威が何名も居て、最初は気後れした。しかし、しっかりしたデータを基に議論すれば、米国側は日本側の主張を真剣に聞いてくれたため、こちらも少しずつ自信が付いていった。また、時には日米間で利害が対立することがあり、机を叩くような激しい議論もあったが、米国側はディベート慣れしていて、議論での対立が感情的に尾を引くことは無かった。今では日米のサイエンスチームメンバーは、長い付き合いの親友のような関係である。米国コーネル大学のPlafcan氏は、ASTERプロジェクトを日米間の科学技術協力の成功例として博士論文の研究対象とした。研究結果は公表されているので2)、ご興味のある方はご覧いただきたい。この中には私も実名で出てきて気恥ずかしくもあるが、プロジェクト運営が研究対象となったのは、関係者としては嬉しい限りである。


ASTERデータの配布は、2016年3月までは少額の課金をしていたが、その後は無償となり、データ利用が大幅に増えている。ASTERの立体視データから作成した全世界のディジタル地形データ(DEM)は、その以前から無償配布していたが、2016~2018年の約2年間だけで5,500万ファイル以上が配布されたとのことである。国際誌や国際学会などでのASTERデータを利用した研究成果の発表も着実に増えてきている3)。ただ地下資源探査の分野では、民間企業は社外に探査情報を公開しないことが多く、ASTERデータの実利用の実態把握は、なかなか難しい。しかし、海外での地質リモートセンシング関連の学会で出会った様々な国の人達から、ASTERデータの出現は地下資源探査分野では画期的だったとか、ASTERデータは実際の探査に役立っているなどと直接聞く機会が何度かあり、当初の設計目的が達成されたことを実感している。


Terra衛星には軌道制御用の燃料がまだ残っていて、このまま順調に行けばASTERは2026年頃までデータ取得が可能だと思われる。1999年の打ち上げ時には想像もできなかったが、TerraとASTERのほうが、私の定年退職よりも後まで働くことになるらしい。こうなったら、最長寿の地球観測衛星を目指して欲しいものである。


地球環境科学専攻

Terra衛星と搭載観測機器

参考文献

1) Yamaguchi, Y., Kahle, A.B., Tsu, H., Kawakami, T., and Pniel, M. (1998) Overview of Advanced Spaceborne Thermal Emission and Reflection Radiometer (ASTER). IEEE Trans. Geosci. Remote Sens., 36 (4), 1062-1071, doi:10.1109/36.700991.
2) Plafcan, D. (2011) Technoscientific Diplomacy: The practice of international policies in the ASTER collaboration. In Land Remote Sensing and Global Environmental Change; Ramachandran, R., Justice, C., Abrams, M., eds., Springer: New York, Chapter 4, pp. 483-508.
3) Abrams, M.J. and Yamaguchi, Y. (2019) Twenty years of ASTER contributions to lithologic mapping and mineral exploration. Remote Sens., 11(11), 1394, doi:10.3390/rs11111394.
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