浮遊性貝類化石の研究
・浮遊性貝類化石から何が分かるか


1)時代の指示者:異足類と翼足類の多くは外洋域に汎世界的な分布をもつため.

2)外洋水の影響の指示者:上に同じ

3)海水温の指示者:暖水域と冷水域で生息する種が大きく異なること,暖水域の中でも緯度(水温)によって種多様度が異なる(高緯度水域ほど多様度が低くなる)ことから,化石群集の内容を調べることによって当時の(相対的な)海水温を推定することが出来ます

4)海洋生態系発達史の解明:
よい化石記録をもつ数少ない大型プランクトンという特質を生かせば,新生代海洋生態系発達史研究の中で,小型プランクトン(有孔虫,珪藻,放散虫,ココリスなど)とネクトン(頭足類,魚類,クジラ類など)をつなぐ興味深い研究材料となり得ます.

5)機能形態学的研究の素材:浮遊生活に適応して腹足類としては多様で特殊な殻形態をもっていますので今後興味深い研究対象となるでしょう.




・現在の研究の動向


私たち研究室では,現在日本の新生代の浮遊性貝類の時空分布を把握すべく,日本各地のさまざまな時代の地層から化石を集め,研究をしています.かなりのデータが集まってきましたが,まだまだたくさんの仕事が残っています.研究が進めば,ほかの生物の化石とは少し違った立場から海洋環境と海洋生物の歴史の解明に貢献できるものと考えています.
新生代翼足類の進化・変遷史
翼足類写真は左側:化石標本,右側:現生種,一部の化石標本については
Hodgkinson et al., 1992を使用
分類のところでも説明しましたように,異足類と有殻翼足亜目の翼足類の多くが石灰質の殻をもっています.大型プランクトンの中では珍しくよい化石記録をもち得る生物といえるでしょう.日本列島は外洋水の流入するような環境下で堆積した新生代の地層が各地に見られるため,浮遊性貝類化石の研究には好適な場所です.
N8帯の翼足類相
富山県八尾層群
(市原・氏原,2005)

Vaginella depressa, Clio itoigawai, Diacrolinia auritaなどが産出
N22帯の翼足類相
愛知県渥美層群(
Shibata et al., 2006
Limacina lesueuri, Creseis acicula, Clio pyramidata, Cavolinia globulosaなどが産出,加えてAtlanta lesueuriなどの異足類も産出
N16帯の翼足類相
安房層群天津層