古代エジプト文明

文献

『古代エジプトの講義録』吉村作治 講談社
『エジプト王国三千年』吉成薫 講談社選書メチエ

エジプトはナイルの賜物(ヘロドトス)
 原義はデルタの土地がナイルによって運ばれ堆積して形成されたことを指している.

ナイルの氾濫

ハピ神: 再生・復活

ケメト:     黒土(沃土),エジプト自体のことも意味する.
デシェレト: 赤土(砂漠)

ナイロメーター(水位計): エレファンティネ島(アスワン): ローマ時代
                          ローダ島(カイロ): イスラム時代

民衆暦: ナイル川の水位変動を基に一年を365日とした.閏年は無いため,
1460年(実は歳差とシリウスの固有運動でずれがある)で暦はちょうど
1年ずれる(ソティス周期,紀元139年に暦は一致した記録があるので,
暦の開始は,前2768年頃とされる).
ペレト・セペデト: ソティス星(シリウス)のヘリアカル・ライジング
      これよりナイルの水位が上昇を開始する. 

 7月--10月   アケト    増水期(日の出直前にシリウスが昇る)
11月-- 2月   ペレト    種蒔期
 3月-- 6月   シェムゥ  収穫期
1月は30日で,5日間は,ヘレト・レンペト(付加日)

貯溜式潅漑(湛水潅漑)
 ナイル河から沖積原はずれまで幹線水路を引き,そこから支線を分岐させる.
 水路には水門を設け,水が耕地に十分行きわたった時点でこれを閉め,40--60
 日水をとどめる.10月末になって増水が収まったら水門を開き水を河へ一気に
 流す.これにより泥土の堆積と土地の脱塩を図る.メソポタミアの倍の収量.
 一つの基幹水路の潤す土地がノモスに対応すると言われる.


タウィ(二つの土地): 上下エジプトのこと <--> カセト(外国)

上エジプト: タ・シェマウ,アスワーンからメンフィスまでの河谷地帯
下エジプト: タ・メフゥ,メンフィスから下流のデルタ

下ヌビア: ワワト,第2キャタラクトからアスワーンまで,住人はメヘシウ
上ヌビア: カシュ,第2キャタラクト以南
          香木,香油,紫檀,黒檀,ヒョウ皮,閃緑岩,金

リビア: チェヘヌ,住人はチェメフまたはリブ,オアシスが点在する
         スィーワ(シヴァ),バフリーヤ(バハリヤ),ファーフラ,
         ダークラ,カールガ(エル・カルガ)など

紅海: ワディ・ハンママートを通って港町クセールへ,第5王朝以降プントへの交易遠征

パレスチナ: 第12王朝初期にシナイ半島北部に支配者の壁,スネフェル王以前から交易
            シナイ半島の鉱山,レバノン杉

ファイユーム: カルーン湖周辺部,中王国時代,ナイルより運河を掘り干拓

             上エジプト            下エジプト

都           テーベ                メンフィス
河           河谷                  デルタ
植物         ロータス              パピスル
動物         ハゲワシ              コブラ
冠           白長冠                赤柄付冠
王           ネスゥ(菅: すげ)  ビティ(ミツバチ)



ナイル沿岸

(ロゼッタ)
(アレキサンドリア) アレキサンダー大王建設,プトレマイオス朝の都
ブト
サイス          第24--28王朝の都
ナウクラティス
クソイス
セベンニュトス  第30王朝の都
メンデス        第29王朝の都
レオントポリス
アヴァリス,ペル・ラメセス  大ヒクソス(第15王朝)の都,19王朝の都
(カンティール)
(タニス)      第21,22王朝の都
ペルシウム
ブバスティス   第22王朝の発祥の地
アトリビス
ブシリス

メリムデ
イウヌウ,ヘリオポリス  太陽神ラーの本拠地,石柱ベンベン
(カイロ)   アラブ期に都市化
(トゥラ)
メンネフェル,メンフィス  初期王朝,古王国,第18王朝後半の首都,プタハ神殿,
                          白壁の都


(アブ・ロアシュ)
(ギザ)                三大ピラミッド,大スフィンクス
(アブ・シール)
(サッカラ)            古王国初期のマスタバ墳,ジェセルの階段ピラミッド
(ダハシュール)        スネフェルの屈折ピラミッド
(マズグーナ)
(リシェト)            第12王朝の都
(メイドゥム)
(サイス) 
ヘラクリオポリス        第9,10王朝の都
(アル・ラフーン)
(ハワラ)
アルシノエ
(ファイユーム)

ヘルモポリス
アケト・アテン(テル・アル=アマルナ) アクエンアテンが造営した首都
(アシュート)
(バダリ)

アドビス
(デンデラ)
(コプトス)
(ナカダ)
ワセト,テーベ(ルクソール)  上エジプトの中心,第11,18王朝前半の首都,
      百門の都(ホメロス),アメン・ラーの総本山,カルナク神殿,ルクソール神殿
ネクロポリス(ディール・アル=バハーリ) テーベ西岸,王家の谷
(エスナ)

(アル=カブ)
ヒエラコンポリス
(エドフ)

(ゲベル・エル・シルエラ)  先王朝時代の南限
(コム・オンボ)
エレンファンティネ島(アスワーン)  第一キャタラクト,ナイルの観念上の水源
フィラエ島      イシス神殿

(アマダ)
(アブ・シンベル)  ラムセス2世の神殿,クフ王以降に閃緑岩鉱山が開発される
(ブヘン)
(ワディ・ハルファ)  第二キャタラクト
(セムナ) 第12王朝センウセレト3世の砦
(クムマ) 第12王朝センウセレト3世の砦

ナパタ          クシュ王国(第25王朝)の都,第四キャタラクト
ジェベル・バルカル  アメン神殿

メロエ


古代エジプト語  アフロ・アジア語族(セム・ハム語族)に属する.

ヒエログリフ    シュメール人より文字の概念のみ輸入したらしい,
                第4王朝以降,使用量が増大する.中王朝時代,官僚制
                の整備と共に正書法が確立され,750文字に限定される.
ヒエラティック  ヒエログリフとほぼ同時期から使われたくずし字体.
                なお,新王国時代のややくずしたヒエログリフが用いら
                れるが,「くずし字体ヒエログリフ」と呼ばれる.
デモティック    第26王朝時代に成立.直線的,これで表される言語自体
                オーソドックスな古代エジプト語から大きく変化している.

死生観

バー    魂    死後冥界へ行く,人面で羽以外に手を持った鳥の形
カー    精霊  死後も現世に残る本質,イデア,
              人の頭上に肘を直角に曲げた両手のみで表現される
アクト  肉体  ミイラは死後,バーの休む場所として残された第二の肉体

神(ネチェル): 旗(吹き流し)が目印,王はネチェル・アアとも呼ばれるが,
                神性は即位によって獲得されマアト(秩序)を維持・更新する
                ことを使命とし,現世の(太陽)神を演じた(エリク・ホルヌ
                ンクの解釈)

天空は鉄でできていると考えた.隕鉄が空から降ってくるので.星は天に
空いた穴で,夜,太陽は天蓋の裏を西から東に返ると考えたらしい.

永遠: ジェト: 不変のまま永続,ネヘフ: 永遠の繰り返し


アテン       夕日神,長らく地方神だったがアクエンアテンが宗教改革で唯一神化
             ラーの新たな姿とされる.エジプトのみならず全世界の神・創造主.
アトゥム     ラー・アテム,ヘリオポリス神学の創造主,太陽神,ラーと同一視.
アヌビス     山犬,ミイラ作成
アピス       牡牛
アメン       テーベの主神,三柱神の一神,「隠れたる者」
アメン・ラー アメン神とラー神が合体,上下エジプトの最高神,カルナク神殿
イシス       ナイル氾濫,シリウス,オシリスの妻
ウアジェト   下エジプトの王権の守護女神,コブラ
オシリス     冥界の支配者,最後の審判の審判長,イシスの夫,弟セトの殺される
クヌム       陶芸のロクロの神.
ゲブ         大地の神,オシリスやイシスの父,横たわる人
ケプリ       創造神,スカラベ(フンコロガシ)
コンス       アメンの妻,テーベの三柱神の一神       
シュー       大気の神,アトゥムの子,ヌト,ゲブの父,両者を引き離し,
             ヌトを両手で支える
セクメト     ライオン
セシャト
セト         下エジプトもしくはエジプト土着の守護神,あるいは上エジプトの
             オンボスの神とも,さらにはヒクソスの神バアルとも同一視される.
             オシリスの弟,オシリスを2度にわたって殺し,ホルスと敵対.
             正体不明の獣,山犬?
テフネト     湿気の女神,アトゥムの子,シューの妻,ヌト,ゲブの母
トゥエリス   かば
トト
ヌト         天空の女神,オシリスやイシスの母,4つんばいの裸体が天蓋を
             形成し,シューに支えられ,太陽船が航行.また牝牛の形もとる.
ネクベト     上エジプトの王権の守護女神,はげわし
ネフティス   ゲブとヌトの子,イシスの妹,セトの妻
ハトホル     女神
ハピ         ナイルの氾濫,再生・復活
プタハ       メンフィス神学の創造主,メンフィスの主神,水の神,泥から人を
ヘカト       カエルの女神
ホルス       現世の支配者,上エジプトもしくは外来人の神か,ただしセトとの
             対比では下エジプトを代表する.
             神話上は,オシリスとイシスの子,ハヤブサ,
マアト       摂理(神の正義),秩序,ラーの娘,羽,最後の審判でその羽と心臓が
             秤量される
ムト         アメンの子供,テーベの三柱神の一神
メセケネト   座位のお産の分娩台を神格化した女神
ラー         ヘリオポリスの主神,太陽神,日の出毎に秩序を更新する.
             第4王朝より,王はラーの息子(サ・ラー),カルトゥーシュは
             太陽が経回る地域(つまり全世界)を表すようになった.
ラー・ホルアクティ ラー神とホルス神の合体,朝日の神,アマルナ宗教改革で
             初期はアテン神が異姿とされる,新王国後期に強力になった

エジプトの女王・王妃

<女王,またはそれと同格の女性>
メリトネト(メルネイト) 第1王朝 デン王の母后(摂政?),アビュドスに王墓並の墓
ニトクリス(ネトイケルティ) 第6王朝最後,ペピ2世の次代.実体は不明.
セベクネフェル(ネフェルセベク) 第12王朝最後,夫アメンエムハト4世の次代.
ハトシェプスト 第18王朝,夫トトメス2世の次代,トトメス3世と共同統治.葬祭殿.
タウセレト 第19王朝最後,サプタハ(シプタハ)の次代.
クレオパトラ7世 プトレマイオス朝最後,プトレマイオス13--15世と共同統治.

<その他>
イアフヘテプ      セケンエンラー王妃,カメス王,イアフメス王の母后,
                  ヒクソス放逐戦争中,内政担当.
ティイ            アメンヘテプ3世王妃,ミタンニ王娘,内政担当.
ネフェルトイティ  アクエンアテン王妃,ミタンニ王族,やってきた美女

四大賢人

ジェセル王の宰相イムヘテプ
クフ王の宰相ヘムオン
アメンヘテプ3世の宰相ハプの子アメンヘテプ
ラメセス2世の第4王子カエムワセト

教訓文学


古代エジプト関連用語

アメンヘテプ2世の王墓: 仏のヴィクトル・ロレにより発掘され,新王国時代
    の諸王(トトメス4世,アメンヘテプ3世等)のミイラが隠されていた.
インハピの墓: ディール・アル=バハーリ崖下の岩窟墓で新王国時代の王の
    (トトメス3世,ラメセス2世等)のミイラの隠し場所
岩窟墓: 新王国時代の王侯貴族の墓の形態,セピ1世墓は入口から玄室まで150m
王名表: 歴代王名一覧表,トリノ王名パピルス(ラメセス朝初期)
  アビドスの王名表(セティ1世葬祭殿廊下壁)
死者の書,冥界の書: パピルスの巻物や壁画として墓室に残された文書
  アムドゥアトの書(トトメス3世墓),アニのパピルス,大英博物館の
    ウォーリス・バッジが集大成
セド祭: 王位更新祭,治世の第30年に行い,王の体力か試される.
葬祭殿: 王や一部の高官を墓に葬る前に行う葬祭の儀式を行う殿
ノモス: 上エジプトの22,下エジプトの20
パピルス: パ・ペル・アア「王家の物」の意,ナイルに自生する葦(カヤツリ
    グサ属)でその茎を短冊上に切り水に浸した後に縦横に重ねて圧縮し,乾燥
  後,石などで表面をなめらかにする.
ファラオ: 語源はペル・アア「大きな家」の意,ギリシア語ではパロ(parco)
ヒエログリフ: 神官マネトー『エジプト史』(-3C),ヘロドトス『歴史』
マスタバ墳: 古王国・中王国時代の王侯貴族の墓.アラビア語でベンチの意,
    日乾レンガの地上部とミイラと副葬品を納めた地下墳室からなる.

時代区分

BC5000 -- BC3000 先王朝
               ハダリ文化,ナカダ文化(上エジプト青銅文化,ペトリーの研究)
               ファイユーム文化,メリムデ文化,マアディ文化(下エジプト)
               ナカダ文化の下エジプトへの浸透が統一を暗示している.
               40剰りのノモスの割拠,ヒエログリフの使用開始

BC3000 -- BC2650 初期王朝(メンフィスが都)
               第1王朝: 上エジプトのメネス(ナルメル,ホル・アハ)王上下統一
               第2王朝: ホルス・セト神の争い,カセケムイ王による和解 

BC2650 -- BC2180 古王国(メンフィスが都)
               第3王朝: ジェセル王(ホルス信仰,階段ピラミッド)
               第4王朝: スネフェル王(5つのピラミッド,シナイ・ヌビア遠征)
                        クフ,カフラー,メンカフラー王(ギザ3大ピラミッド)
               第5王朝: 太陽神ラーが最高神,アブ・シールに太陽神殿,ピラミッド
               第6王朝: ペピ2世の長期治世,王権の弱体化

BC2180 -- BC2040 第1中間期
               第7--11王朝: 群雄割拠(ヘラクリオポリス侯(9,10)とテーベ侯(11))

BC2040 -- BC1785 中王国(第11王朝はテーベを都に,12王朝はリシェトを都に)
               第11王朝: メンチェヘテプ2世による再統一,ナイル西岸に墓・神殿
               第12王朝: テーベ宰相アメンエムハト1世クーデター,文芸復興
                         センウセレト3世,アメンエムハト3世: 全盛期,
                         テーベ神官との確執,庶民層の教育により官僚の創生.
                         ファイユーム干拓  

BC1785 -- BC1565 第2中間期
               第13,14王朝: テーベを都とし,官僚が牛耳る13王朝とデルタの
                            クソイスの14王朝が並立.ヒクソスデルタに浸透 
            第15,16,17王朝: ヒクソスのクーデター,大ヒクソス(15: アヴァリス)
                            が,小ヒクソス(16: デルタ西部)と,テーベのエジプ
                            ト政権を封建.セケネンラー2世,カメス王が反抗.

BC1565 -- BC1070 新王国(18王朝の都ハテーベ,アマルナ,メンフィス,
                         19王朝はペル・ラメセス)
               第18王朝: イアフメス王がヒクソス放逐,アメンヘテプ1世リビア遠征
                         トトメス1世ユーフラテス上流部まで遠征カナン属国化
                         ハトシェプスト女王プントと交易,葬祭殿(大臣センムト)
                         トトメス3世全盛期・遠征17回最大版図,ミタンニ等と戦う
                           パレスチナ3属州の設置.カルナク神殿壁画
                         アメンヘテプ3世栄華・ルクソール神殿,マルカタ王宮

                           (妃ティイ,宰相ハプの子アメンヘテプ)
                         アクエンアテン(アメンヘテプ4世),アマルナ革命
                           宗教改革(アテン神を唯一神にして,他の神を排撃)
                           アケト・アテン(エル・アマルナ)遷都,
                           妃ネフェルトイティ(ミタンニ系),
                           アマルナ文書(アッカド語)ヒッタイト新王国の伸張
                           アマルナ様式芸術
                         トゥトアンクアメン,信仰復興,メンフィス遷都
                           将軍ホルエムヘブ,カデシュ遠征,後即位. 
               第19王朝: セティ1世
                         ラメセス2世,カデシュでヒッタイト王ムワタリと戦う
                           ヒッタイトと相互不可侵条約.建築王.
                           アブ・シンベル神殿
               第20王朝: セトナクト
                         ラメセス3世,海の民撃退
                         ストライキ頻発,墓泥棒横行
                         ヘリホル,テーベにアメン神権国家樹立
BC1070 -- BC 700 第3中間期
               第21王朝: スメンデス,タニスを都として王朝を樹立.
                         プスセンネス1世,アメンエムオペト王,完全な墓発掘
            第22-23王朝: ブバスティス出身リビア人,シェションク1世,タニス都
                         に王朝樹立(22).一方,テーベにもリビア系王朝並立(23)
               クシュ王国: ヌビア人の王国ナパタを都,カシタ王,上エジプト支配.
                         ピイ王,ヘルモポリス,メンフィスを陥落させ統一.
               第24王朝: テフナクト,ピイがナパタに帰還後,サイスに王朝樹立

BC 700 -- BC 343 末期王朝
               第25王朝: クシュの王シャバカ,24王朝のボッコリスを倒し再統一.
                         アッシリア王エサルハッドン,メンフィス占領,24王朝の
                         タハルカ南遷し戦う.アッシュル・バニパル,テーベ占領.
               第26王朝: プサメティコス1世,アッシリアより下エジプトの管理を
                         任される.後,独立.ネコ2世,新バビロニア撃退.
               第1次アケメネス朝ペルシア占領(第27王朝):
                         カンビュセス王,プサメティコス3世を破り処刑.
               第28王朝: サイスのアミュルタイオス,ペルシアを撃退する.
               第29王朝: ネフェリテス,アミュルタイオスを破りクソイスを都に.
               第30王朝: ネクタネボスがクーデター,セベンニュトスを都に.
               第2次アケメネス朝ペルシア占領: アルタクセルクセス3世
               アレクサンドロス大王: ダリウス3世のペルシア帝国を打倒

BC 305 -- BC  30 プトレマイオス王朝(マケドニア人の王朝)
               プトレマイオス1--15世,クレオパトラ女王(7世)

BC  30 --   641  ローマ,東ローマ支配,キリスト教(コプト教会)の浸透.

ピラミッド