リモートセンシングは、電磁波を用いて非接触でデータを取得する技術です。電磁波はその波長や周波数に応じて図1のように区分されており、波長の短い側から順にガンマ線、エックス線、紫外線、可視光線、赤外線、電波などの呼称が与えられています。われわれの眼が感じることができるのは可視光線のみで、電磁波の中のごく一部分にすぎません。リモートセンシングでは主に紫外線からマイクロ波(電波の一部)を用いています。可視光線だけでなく、人間の眼が感知できない領域の電磁波も使うため、肉眼では捉えられない物質の違いや状態などを知ることができます。
リモートセンシングによってデータを取得するセンサは、人工衛星や航空機、最近ではドローンなどに搭載され、一度に広い範囲を観測することができます。また地球を周回する人工衛星を使えば周期的に繰り返し観測できるので、地球表面の時間的な変化を監視するのにも役立ちます。
こうした利点のため、リモートセンシングは様々な分野で利用されています。例えば森林・氷河・サンゴ礁などの環境変化の解析、海洋や沿岸域の水面温度やプランクトン量などの解析、都市・農地などの土地被覆変化の監視、地質マッピングや地下資源探査、火山噴火・洪水・大規模地滑りなどの自然災害の被害把握など多岐に亘ります。
図5に示したように粘土鉱物はその中に含まれる水酸イオン(-OH-)により、波長2.1〜2.4 μm付近で鋭い特徴的な吸収を起こし、反射率が低くなります。また石灰岩を構成する方解石は、炭酸イオン(-CO32-)の存在のため、波長2.3〜2.4 μmで強い吸収を起こします。これらの波長域で観測を行うことにより、粘土鉱物を含む熱水変質帯や、炭酸塩鉱物からなる石灰岩などの分布を識別・マッピングすることができます。熱水変質帯には金・銀・銅などの有用な金属鉱床が胚胎することがあるため、鉱床探査の重要なターゲットです。
NASAのTerra衛星に搭載されている日本製センサのASTER(Advanced Specborne Thermal Emission and Reflection Radiometer)は、鉱物・岩石を識別・マッピングすることを目的として、これらの波長域に多くの観測バンドが設定されています(Yamaguchi et al., 1998)。
図7~9は、粘土鉱物や炭酸塩鉱物の分布をリモートセンシングによってマッピングした例です。何種類かの鉱物や岩石が、画像上で異なる色で識別できることが分かります。図10~11は、図6~9の現地の写真ですが、肉眼が検知できる可視域で観察すると、対象地域の粘土鉱物などは識別が難しいことが分かります。
鉄酸化鉱物は、鉄イオンのため、波長0.4~0.6 μmと0.8~1.0 μm付近で波長方向に幅の広い吸収を起こします。図12に代表的な鉄酸化鉱物である赤鉄鉱(Hematite),鉄ミョウバン石(Jarosite),針鉄鉱(Goethite)の反射スペクトルを示します。肉眼で鉄サビが赤く見えるのは、波長0.4~0.6 μmの吸収のせいです。酸化鉄鉱物を含んだ岩石や地層も、同じ理由で肉眼では赤い色に見えます(図13、14)。
ASTERの可視・近赤外域のバンドで取得したデータを使って、バンド1に青、バンド2に緑、バンド3に赤を割り当ててカラー合成すると、鉄酸化鉱物を含んだ地層は、画像上では黄緑色で表現されます(図15)。
岩石の反射スペクトルにおける波長0.8~1.0 μm付近の吸収の深さは、岩石中に含まれている酸化鉄鉱物の量に依存するため、これを利用して、航空機搭載ハイパースペクトルセンサのデータから、岩石中に含まれる酸化鉄の量の見積を行うことができます(Noda and Yamaguchi, 2017)。図16は鉄酸化鉱物による吸収の深さを示し、それを岩石中の酸化鉄量の見積に変換したのが図17です。
植物の葉がどのくらい光を反射するのか、光の波長ごとに反射率として示したものが、下の図18です。反射率が低いということは、吸収が強いことを意味します。葉の中のクロロフィルは、青と赤の光を吸収して光合成に利用しているため、これらの波長域(0.4〜0.5 μmと0.6〜0.7 μm)では反射率が低くなっています。その中間の緑の光(0.5〜0.6 μm)の反射率は相対的に高く、このため植物の葉は肉眼では緑色に見えます。さらに波長の長い近赤外域の光(0.7〜1.3 μm)は、可視光線よりも強く反射されます。このように可視光線の赤の波長域から隣接する近赤外域にかけて反射率が急変しますが、この急変部をレッドエッジと呼びます。地球表面に分布する物質でこのような特徴的な反射率パターンを示すのは、植物だけです。
こうした反射率パターンの特徴を数値化したものを植生指数(または指標)と呼びます。植生指数には、近赤外域と赤の波長域での観測データの差や比を用いるものや、近赤外域と赤の波長域の観測データの差を和で割り、値の範囲を-1から1に制約した正規化植生指数(NDVI: Normalized Difference Vegetation Index)などがあります。植生指数が大きいほどクロロフィルによる吸収が強く、従って植物の量が多いとみなすことができます。図19はNDVIの値に応じて色を付けたもので、世界の植生の分布が分かります。
同じ地域について衛星による観測を継続することにより、植生の増減を監視することが可能です。図20は、1975年と1986年に撮像されたLandsat衛星の画像の比較により、アマゾン地域で入植者の農地開発による熱帯雨林の減少を捉えた例です。
図21は、NASAのTerra衛星に搭載されたASTERセンサが取得した、名古屋市周辺の画像の画像です。可視・近赤外域の画像では植生が緑色になるようカラー合成されています。一方、熱赤外画像は、表面温度を表しています。二つの画像を比較すると、植物の分布域では周囲の都市域に比べて、表面温度が低くなっていることが分かります。また可視・近赤外画像のデータからNDVIを計算し、表面温度との関係を調べると、両者の間には明瞭な負の相関があることが分かります。こうしたことから、植物の分布域では葉からの水分の蒸発散によって表面温度が周囲よりも下がり、都市のヒートアイランド化をある程度抑制していることが理解できます。
植物の増減は、気候変動とも関係があります。図22は、1999年~2010年の期間の5~8月の気温とNDVIの変化傾向を示しています。シベリア東部では、この期間に気温が上昇したためにNDVIが大きくなった可能性があります。NDVIの上昇は、植生の繁茂時期が長くなったか、植物の量が増えたことを反映していると思われます(Chen and Yamaguchi, 2013)。
世界の人口は、今後ますます都市域に集中すると言われており、多くの都市は拡大を続けています。衛星リモートセンシングは、1970年代からのデータが蓄積されており、誰でも世界中のどの地域のデータでも利用できるため、世界各地の都市域の拡大を同じ基準で比較するのに役立ちます。一方、日本では全体として人口は減少に転じており、一部の地域では空き家が目立つようになってきました。都市域の拡大と人口の増減との間の関係は、自治体による都市機能の維持に大きな影響を及ぼす重要な問題です。人口増加よりも都市域の拡大のほうが大きい場合、スプロール化していると言われます。
地表面の物質は、物質によって波長ごとの電磁波の反射パターンが異なるため、それを利用して物質の識別やマッピングを行うことができます。図23は、ASTERデータを使って、名古屋市周辺の2000年と2004年の土地衣服分類を行ったものです(Kato and Yamaguchi, 2007)。土地被覆分類は、物質の違いを表しているので、土地の用途に対応する土地利用分類とは異なることに注意が必要です。
こうした土地被覆分類から都市域に対応するカテゴリーを抜き出し、名古屋市周辺での都市域の変化を可視化したのが図24です(Kizawa and Yamaguchi, 2015)。名古屋市の都市域が次第に拡大してゆく様子が分かります。同様の解析をベトナムの首都ハノイに対して行った結果が、図25です。
リモートセンシングは、都市のヒートアイランド化の解析にも使われています。図26は、都市域の地表面熱収支を概念的に示したものです。地中伝導熱と人工排熱の差を蓄熱フラックス(△G)と定義すると、地表面でのエネルギーフラックスの釣り合いの式から、蓄熱フラックスは、正味放射、顕熱、潜熱の各フラックスから計算することができます。正味放射、顕熱、潜熱は、衛星リモートセンシングによって観測した表面温度やアルベド、表面物質の種類に加えて、気象台やアメダスなどによる気温などの実測データを使うことによって求めます。このようにして求めた蓄熱フラックスを図27~29に示します(Kato and Yamaguchi, 2007)。
図27と28を見ると、中心市街地では周囲に比べ、昼に蓄熱フラックスが正の値で大きく、熱容量の大きいビルの建物などが熱を溜めていることが分かります。一方、、夜になると逆に中心市街地の蓄熱フラックスは周囲よりも大きな負の値になり、熱を放出していることが分かります。つまり中心市街地では、熱容量の大きなビルが、昼間に太陽放射による熱を溜め、夜間に放出するため、ヒートアイランド化を促進していることが分かります。
図29の名古屋市の南の製鉄工場では、季節や時刻に拘わらずに蓄熱フラックスは負の値を示します。これは、製鉄所の表面が常に高温で、日時に関係なく熱を放出していることを示しています。