教員紹介

平野 恭弘

平野 恭弘
(HIRANO Yasuhiro)

准教授
メールアドレス:yhirano [at] nagoya-u.jp
居室:環境総合館717
内線:2536

地球環境と森林に興味のある皆さんへ
‐森の根の重要性‐

「森林」と聞いて皆さんはまず何を思い浮かべるでしょうか?

森林の中から空を見上げ、緑に生い茂る葉や高くそびえる太い幹の様子を思い出す方も多いと思います(写真1)。私たちの研究室では森林に入ると下を向いて土壌に生育する根の様子を観察しています。地球システムの中で、森林は生物圏、大気圏、地圏、水圏といったサブシステムを結びつける要として位置付けられます。さらに森の根が生育する土壌は地球の皮膚といわれるように、広大な地球環境システムにおいて、薄い表面のほんの一部を占めるにすぎませんが、私たち人間にとってなくてはならない必須の存在といえるのです。

森林と里山
写真1:森林と里山

森林は温暖化物質である二酸化炭素を吸収し、光合成を行うことで有機物として炭素を固定し貯蔵する役割を果たしています。温帯に広がる森林では、樹木個体の2割から4割程度の炭素が根に貯蔵されています。このことから森の根も温暖化抑制に貢献しているといえるでしょう (平野 2017, 2018)。

普段見えない土壌中の根を研究することは、葉や幹など樹木地上部の研究と比較して時間や労力がかかり困難なことが多いのですが、その分国際的にも研究がすすんでおらず、まだまだ明らかにされていないことがたくさんあります。皆さんもこの未知な根の世界をいっしょに観察してみませんか?

  • 平野恭弘 (2017) 根っこのえほん5 大きな木の根っこ , 大月書店
  • 平野恭弘 (2018) 地中レーダを用いた樹木根の非破壊検出と根系構造推定, システム/制御/情報, 62:502-507

樹木や土壌を支える太い根 粗根
-安全安心学に貢献-

根の大切な役割の一つとして、太い根が高い樹木の大きな体を支えることがあげられます(写真2)。森林の中でおきる日々の風雨などにより倒れないように樹木は土壌中に根をバランスよく生育させています。木の持つ根系(根の形)は樹種により特徴があり、深さ方向の根をまっすぐ伸ばすクロマツのような垂直根系型や土壌中斜めの深さ方向に根を張るスギなどの斜出根系型、土壌表層の水平根をたくさん発達させるヒノキなどの水平根系型などがあります。しかし、土壌中に著しく硬い層や滞水的な環境が存在すると、根系は土壌環境に適応してその形を変化させながら成長します。例えば海岸林に生育する垂直根型のクロマツは、地下水位の高い土壌では垂直の根を成長させることができず水平根型となります(Hirano et al. 2018 写真3)。

スギの太い根
写真2:スギの太い根
海岸クロマツの本来示す垂直型根系(上)と地下水位の高い土壌に生育する水平型根系(下)
写真3:海岸クロマツの本来示す垂直型根系(上)と地下水位の高い土壌に生育する水平型根系(下)(Hirano et al. 2018を改変)

もう一つ大切な役割として、根を土壌中に張り巡らせることで根系のネットワークを作り、表層土壌の崩壊防止や土砂流出を防止することがあげられます。表層土壌には豊富な養分が存在し生物多様性も高いため、根の存在が土壌をはじめとする森林の物質循環を支えています。

私たちは大きな木の根を実際に掘り取り試験することで実証していきます。また根を掘ることは大変な労力のため、私たちは土壌を掘らずに根系の様子を推定する新たな手法として、物理探査手法である地中レーダ探査を用いる手法を確立することに取り組んでいます。特にこの分野では世界的に研究動向をリードする研究を行っています(Hirano et al. 2009, 平野ら 2015)。また根が土壌を保持する力すなわち土壌崩壊防止力の評価を土壌中の根の分布や強度を明らかにすることに取り組んでいます。

  • Hirano Y, Dannoura M, Aono K, Igarashi T, Ishii M, Yamase K, Makita N, Kanazawa Y (2009) Limiting factor in the detection of tree roots using ground-penetrating radar , Plant and Soil 319:15-24
  • Hirano Y, Todo C, Yamase K, Tanikawa T, Dannoura M, Ohashi M, Doi R, Wada R, Ikeno H (2018)
  • Quantification of the contrasting root systems of Pinus thunbergii in soils with different groundwater levels in a coastal forest in Japan, Plant and Soil, 426: 327-337
  • 平野恭弘, 山瀬敬太郎, 谷川東子, 檀浦正子, 大橋瑞江, 藤堂千景, 池野英利 (2015)
  • 減災の観点から樹木根系を非破壊的に推定する地中レーダ法の現状と課題, 日本緑化工学会誌 , 41:319-325

樹木の生命を支える養水分を吸収する細い根 細根
-持続性学に貢献-

根による土壌からの養水分吸収は、植物の生育にとって不可欠な役割です(写真4)。一般的に直径2㎜以下の細い根を細根(さいこん)と呼び、この細根が養水分吸収の役割を担います。この細根は樹木個体における全重量のうちわずか数パーセントを占めるに過ぎませんが、葉が固定する年間光合成産物のうちの3割程度もが、この細根に配分されています。なぜこのようにたくさんの光合成産物を配分する必要があるのでしょうか?その理由は、1.養水分吸収など高い活性をもつことで炭素が呼吸として消費されること、2.菌根菌など微生物と共生し土壌中の養分を受け取る代わりに光合成産物を受け渡すこと、3.細根は数か月から数年程度と比較的短期間で更新していること、などがあげられます。特に葉において枯死脱落していく「落ち葉」と同じように、細根も数か月から数年で「落ち根」として枯死脱落し、土壌を作る供給源となっているのです。

樹木が作る森林土壌の表層(左)と細根(右)
写真4:樹木が作る森林土壌の表層(左)と細根(右)

樹木は生育する場所を移動することができないため、限られた範囲の土壌でのみ養分吸収をしなければなりません。酸性化の進んだ土壌では樹木に必須な養分が不足することがあるため、それを補うため細根は量をより増やすことで適応することが私たちの研究から明らかになってきました (Hirano et al. 2017)。現在私たちは、中部関西地域に広がる酸性化した土壌においてスギヒノキ人工林が細根をその形態や生理など生態学的にどのように適応させながら持続的に生育しようと試みているのか?また酸性化した土壌はさらに酸性化が進み、さらに土壌劣化が進むのかどうかという点も明らかにしようと試みています。

こうした細根の研究手法は国際的にも基準化されていないことが多いため、私たちは国内外とも樹木根研究者のネットワーク交流を盛んに行い、手法の確立や研究動向を国際的に発信しています(Finer et al. 2011)。

  • Hirano Y, Tanikawa T, Makita N (2017) Biomass and morphology of fine roots in eight Cryptomeria japonica stands in soils with different acid-buffering capacities , Forest Ecology and Management , 384:122-131
  • Finer L, Ohashi M, Noguchi K, Hirano Y, (2011) Fine root production and turnover in forest ecosystems in relation to stand and environmental characteristics , Forest Ecology and Management , 262:2008-2023

臨床森林環境学
-臨床環境学に基づいた新たな研究領域の創出-

名古屋大学環境学研究科では、実際に環境問題がおきている現場で責任をもって評価を行う「診断」と、その現場で責任を持った対応を行う「治療」の双方に取り組むことができる新たな学問体系「臨床環境学」の創成を行っています。国際学術プラットフォームであるFuture Earthが理想とする超学際的(トランスディシプリナリ)研究の実践である臨床環境学を、生態系サービスの保全と人類の生存基盤の確保、多発・集中する自然災害への対応と減災社会を見据えた世界ビジョンの策定、という日本が取り組むべき研究課題について、森林という立場から取り組んでいます。

具体的には、超学際的研究の理念であるステークホルダーとの協働計画と研究実践を、まずは樹木の根という視点で、土壌を支える力を評価し自然災害から減災に期待を示す行政や民間におけるニーズ、樹木を健全に生育させるために根の成長や位置を知りたいという樹木医やNPOにおけるニーズなどから、根の広がりと強度の評価をすることで、森林の生態系サービスの評価・保全・向上に貢献することを目標としています(写真5)。

ステークホルダー向けの講演講習会で樹木の根の役割を解説
写真5:ステークホルダー向けの講演講習会で樹木の根の役割を解説
  • 平野恭弘 (章分担執筆) (2014) 渡邊誠一郎,中塚武,王智弘編,臨床環境学.名古屋大学出版会

森の根の研究をいっしょにしませんか? 大学院生募集中!

森の根や土壌に興味があり、太い根や細い根の掘り取りや観察など上記の研究を一緒に進める大学院生の皆さんを募集中です。興味のある学生さん社会人の皆さんはぜひ一度、私たちをご訪問ください!

連絡先:平野恭弘 (名古屋大学大学院 環境学研究科 地球環境システム学講座)