白馬フィールドセミナー

2008年9月11日(木)〜12日(金)

白馬村

テーマは「かんらん岩と蛇紋岩化作用」

Moon Light Scienceがはじまった.

メッシュ状構造,リボン状構造,綾織り状構造(写真のポーズ),バスタイト,アンチゴライト,リザダイト,クリソタイル

午前10時頃の八方池.こんなに天気がよかったんです.


第3リフト(赤い屋根付近)から八方池にむかう尾根沿いの登山道


蛇紋岩(アンチゴライト)化したかんらん岩.強い片理構造が褶曲している.

今回は都合で不参加だったアナタ,次回は是非とも...(次は日本海!?)

白馬フィールドセミナー (巡検&研究発表会)報告

静岡大学理学研究科地球科学専攻
修士1年 井元 恒

白馬フィールドセミナーが2008年9月11日から12日にかけ,長野県北安曇郡白馬村八方尾根において開催された.このセミナーは,上部マントルのレオロジーの理解を深めるため,分野の異なる研究者同士が実際に生の石を観察して議論することを目的としている.開催地である白馬村は飛騨外縁帯に位置し,八方尾根蛇紋岩体が露出している.八方尾根岩体は長野オリンピックのジャンプ競技やダウンヒルなどが行われた白馬八方尾根スキー場としても有名であり,現在でもウインタースポーツだけでなく,夏はテニスやトレッキングが盛んである.そのため,インフラが整備され,合宿施設等が充実している.また,リフトが常設され,八方山の麓 (標高約800m) から甍 (標高約1800m)まで気軽に上がることができる.今回は道林克禎静岡大学准教授が中心となり,参加者13名(静岡大学・東京大学・富山大学・広島大学)で行われた.

9月11日,我々は昼過ぎにJR北アルプス線白馬駅に集合し,会場となるホテルに移動した.ホテル到着後すぐに勉強会が夕食の時間まで行われた.会場はホテルの喫茶店を借りたため,プロジェクター用のスクリーンの立て方や机の配置などで工夫が必要であったが,最終的には快適な会場となった.勉強会では始めに静岡大学修士1年の藤井彩乃さんが,八方尾根蛇紋岩体の地質概説とカンラン石の解析結果について発表した.次に渡辺了富山大学准教授が沈み込み帯における蛇紋岩の役割について話をされ,その物性研究についてレビューされた.その上で八方の蛇紋岩試料から得られた結果について発表された.普段蛇紋岩についてあまり考えることがなかったので新しい知見を得ることができた.午後の最後に富山大学修士2年の矢野秀明さんが夜久野オフィオライトの蛇紋岩試料を使った弾性波速度の測定実験について発表した.私も修士研究で実験を行っているが,実験の意義を漠然としか考えていなかった.しかし,同じ修士の学生である矢野さんは意義を理解した上で実験していることを知って感心した.夕食では皆で鍋をつつき,それから大自然を満喫できる露天風呂を堪能した後に,夜の勉強会に入った.夜の部では広島大学の平内健一博士が蛇紋岩を使用した変形実験と低温型蛇紋石と高温型蛇紋石の微細構造の変化について発表された.この頃にはお酒も入ったこともあり,道林克禎准教授や広島大学の片山郁夫博士のつっこみなどかなりの盛り上がりをみせた.そのなかで,偏光下でまるで真夏の太陽のようにギラギラ輝くカンラン石に比べ,月明かりのように控え目に輝く蛇紋石の研究をムーンライトサイエンスと呼ぼうということになった.

翌日12日は快晴であった.我々は朝食を宿ですませ標高約2000mにある露頭に向かった.リフトを乗り継ぎおよそ30分で標高約1800mに到着した.そこはもう橄欖岩と蛇紋岩の世界だった.リフト降車場から八方池 (標高約2050m)まで1時間程かけて登山した.道中の露頭や転石は全て橄欖岩か蛇紋岩である.むしろ見渡す限り露頭が続くと表現した方がいいかもしれない.途中,露頭を観察しながら片山郁夫博士から科学的な話だけでなく,学生時代は登山によく行っていたなどいろいろな話を伺った.前日に蛇紋岩の話を聞いていたので普段あまり気にしていなかった蛇紋岩に目がいき,楽しく露頭観察できた巡検だった.八方池では白馬岳などの山々が鏡のような水面に映っている素晴らしい景色を見ることができた.地元の方々も年に数回しか見られない景色だそうだ.帰りもリフトのおかげで楽に下山することができた.下山後,温泉に入り,名物の信州蕎麦を食べ解散した.

私が所属する道林研究室は主に橄欖岩を研究しているため,薄片観察をしている時に蛇紋石があってもあまり気にしていなかった.むしろ邪魔者扱いをしていた.そのため,恥ずかしながら蛇紋石の構造など初めて聞くことが多くかなり勉強になった.実験を積み重ねていく渡辺了准教授,どのような話にも全力でつっこみを試みる道林克禎准教授,露頭を観察しながら次の実験プランを練っていた片山郁夫博士の姿勢,橄欖岩と比べてまだあまり研究されていない蛇紋岩に注目する平内健一博士の言葉等に,第一線で活躍している研究者とはこういうものなのだと肌で感じた.また,ほとんどカンラン石が残っていない蛇紋岩について,橄欖岩の研究者である道林克禎准教授は「もう終わっている.」と表現するが,蛇紋岩の研究者である平内健一博士にとっては「そこからが始まり.」と表現することを知った.このように,見る者が変わると同じ岩石でも得るものが違うものだということを改めて実感するフィールドセミナーだった.