地球の物質科学を知らない子供たちへ(未完)

地球の構造

地球の内部構造は主に地震波(実体波および自由振動)を使った観測から 明らかにされてきた.原理的に最も単純なのは,地震の実体波 (縦波がP波,横波がS波)を用いる以下の方法である. 地震の震源の直上地表点(震央 epicenter)から 観測点までの震央距離に対して,各種の地震波が震源から観測点に 到達するまでの時間(走時 travel time)をプロットすると地震波毎に 曲線状に並ぶ.この地震波の走時曲線の傾きは,地表における地震波の 見かけ速度(角速度の次元)と呼ばれ,これから深さに応じた地震波速度を 決めることができる.P波とS波の速度(vPvS)がわかると

dP          4
--  = vP2 -  - vS2
dρ          3
より圧力 P が密度ρのみの関数とみなせば,静水圧平衡の式と併せて 密度構造を求めることができる. また,2つの走時曲線がカプス状に合流するのが見られるが, この上側(長走時側)ブランチは,地下の地震波速度の 不連続面からの反射波(例えばコアとマントルの境界からの反射波である PcP波,ScS波など)と解釈できる.さらに外核を伝わるS波が観測されない ことから外核が液体であることがわかる.このようにして20世紀を通じて, 地球の平均的な球対称内部構造の解明が進んできた.

さらに,1980年代の後半からは,医療現場で使われているCTスキャンと同じ 原理で地球の三次元構造(非球対称構造)を明らかにする地震波トモグラフィー の手法が確立され,マントル対流やスラブの沈み込みの様子がわかるように なってきた.

地球は,金属鉄を主成分とするコア(核: 半径約3500km)のまわりを 岩石質のマントルが取り巻いている.コア・マントル境界(CMB)は 地表から深さ約2900kmにあたる.この境界の直上のマントル最下部の 厚み200km程度の層は,D”層と呼ばれ,地震波速度異常(高速度で, 動径方向速度勾配は小さく,水平不均質が大きい)が存在する.

コア(core)は半径約1200kmの固体の 内核(inner core)とその外を取り巻く液体の外核(outer core)から成っている. 内核は地球史の半ば頃に形成されゆっくりと成長しつつある.導電性の低粘性 流体である外核の差動回転運動と熱・組成対流よって生じるダイナモ機構に よって軸双極子磁場を主成分とする地球磁場が生成されている.

マントル(mantle)はほとんどが固体だが,数億年といるタイムスケールで 対流(solid-state convection)している.ただし,地表に近い層では一部が 融けてマグマ(magma)を作っており,地震波の横波(S波)の低速度層として 知られる.また,地表から深さ670km付近に地震波速度の不連続面があり, これより内側を下部マントル(lower mantle), 外側を上部マントル(upper mantle)と呼ぶ.また,深さ410km付近にも 地震波の不連続が知られている.いずれの不連続も高圧実験の知見から 構成鉱物の層変化に起因すると考えられている.マントル対流の様子は おおまかなパターンは近年の地震波トモグラフィー等によって明らかに なってきている.それによれば,中部太平洋とアフリカ大陸付近に上昇域 があり,環太平洋にリング状の下降域がある.上昇域を ホット・プリューム(hot plume),下降域を コールド・プリューム(cold plume)と呼ぶ人もいる.

地殻(crust)は,マントル(mantle)から地球史を通じた火成活動による分化過程 により生じた地表の薄皮で,大陸部分は分厚く(20〜70km), 海洋部分は薄い(7km).組成も花崗岩(granite)を主体とする大陸地殻と 玄武岩(basalt)を主体とする海洋地殻で異なる. 地殻とマントルの境界は地震波速度の不連続面で, モホ(moho)面と呼ばれる.地球の表面を被う地殻は,十数枚に分かれた プレート(plate)という単位毎に剛体の板のように各々単一速度 (より正確には地球表面上の一点を中心とする単一角速度)で動いている ように見える.このプレートの動きは,ウェゲナー(A. Wegener)の 大陸移動の仮説で導入されたことに始まり,地表付近での様々な 地球科学的な現象やその痕跡を統一的に説明するプレートテクトニクス (plate tectonics)理論(1960年代後半に確立)の根幹となり, 1980年代以降VLBIやGPSといった地表点の精密測位技術によって実測されるに 至った.

地殻とマントルは化学組成の違いで分られるが,プレートテクトニクスに おいては,上述の低速度層(部分溶融層)を境(その深さは70kmから150km) として,その上部をリソスフェア(lithosphere)低速度層部分を アセノスフェア(asthenosphere)と分けている. より低粘性で流動的なアセノスフェア上を,より低温で硬いリソスフェアは, そのマントル部分と地殻部分が一体となって上述のプレートとして動いている. 大陸地殻をのせた大陸プレートでは,アセノスフェアは深くはっきりとしない が,海洋地殻をのせた海洋プレートでは比較的浅く明瞭である.

海洋プレートは中央海嶺(mid ocean ridge)で噴出するマグマより生まれ, 水平に広がりつつ冷え,海溝(ocean trench)で大陸プレートや 他の海洋プレートの下に沈み込む.このとき沈む込んだプレートは, スラブ(slab)と呼ばれ, 地震波トモグラフィーによって冷たい(高地震波速度)塊として 所によっては下部マントルまで追跡できる.沈み込み帯の背後側では 火成活動が盛んで,環太平洋のような火山帯が形成される.海洋プレートの動きは 主にスラブの沈む込みによる引き摺りで決まり,間を埋めるように中央海嶺で マグマ湧出が起っていると考えられる.大陸プレートどうしが衝突すると ヒマラヤ山脈のような造山帯(orogenic belt)を形成して隆起する. 相対運動が水平方向にずれる様式のプレート境界は,カリフォルニア州の サン・アンドレアス断層に代表されるような トランスフォーム断層(transform fault)を形成する.

地球の元素組成

太陽大気のスペクトル観測や,始源的な隕石(CIコンドライト) の元素分析から惑星形成期の太陽系の平均組成が推定されている.

表1: 元素存在度
元素 太陽系 地球 地殻 MORB 大陸 海洋 大気
H 27900____
He 2720____
O 23.8___
C 10.1___
Ne 3.44__
N 3.13__
Mg 1.07__
Si 1.00__
Fe 0.90__
S 0.515_
Ar 0.101_
Al 0.0849
Ca 0.0611
Na 0.0574
Ni 0.0493
Cr 0.0135
P 0.0104
Mn 0.0096
Cl 0.0052
K 0.0038
Ti 0.0024
Co 0.0023
Zn 0.0013

太陽系元素存在度組成の均質なガスを任意の温度・圧力で熱平衡に置いた 時のガス・鉱物組成を決めることができる.これを高温状態から順に見て いくと,温度毎に鉱物が凝縮していく様子とみなさる.これを平衡凝縮 モデル (equilibrium condensation model)という. 2000Kの太陽系元素存在度組成ガスを考える.このときすべては気相に ある.ガス組成は,希ガスを除くと,H2,CO, H2O, N2,H2S が主要成分である.温度を下げると まずは,Pt,Wのような難揮発性の白金属元素や希土類元素が金属として, Ca,Al,Tiが酸化物として凝縮する.続いてケイ酸塩鉱物が,Forsterite, Enstatiteの順に凝縮する一方,Fe,Niは,ほぼ同温度で,まず金属と して凝縮する.さらに冷えるとNa,Kがケイ酸塩の中に取り込まれる. さらに金属鉄は H2S と反応して硫化物となり,さらに約500Kで水と反応してFeO(正確には Fe3O4)となる.

コアは,金属鉄が主成分だが,原子数比で5%程度のNiと0.3%弱のCoを含む 合金で,さらに質量比で5%ほどの軽元素を含むらしい.この軽元素が何か は決着がついておらず,H,C,O,Si,Sのいずれかが主成分と考えらている. 内核には軽元素は入りにくいと考えられる.

地殻やマントルを構成する岩石は,主に珪酸塩 (MxSOyy=3,4)鉱物から成り,金属元素Mは主にMgである. つまり主要構成元素は,O,Si,Mgであり,これに続いて, Siを代替するAl,Mgを代替するFe,Ca,Cr, Na, Ti, Mnの順で存在する.

地殻には,Mgに比べてSiが濃集しており,AlやNa,K,Ca, Ti, Th,Uといった 元素が濃集している.これらはイオン半径が大きく液相濃集元素 (incompatible element)と呼ばれる.