同一試料から様々な情報を!そ して、多角的に検討しよう!

これまで、同一試料から色々な化学データを取り出すことを念頭に実験をしてきました。
以下に、海洋堆積物を例に、どのような化学分析を行ってきたかを紹介します。


(0)  試料採取地点



上の図は、地質調査所(現:産業技術総合研究所)より分けていただいた海洋堆積物試料のサンプリングサイトです。 何れの試料も大切なものですから、できる限り多くの情報を得、多角的に検討することを 念頭に置いています。具体的には、 主要成分元素はもちろん、脂肪族炭化水素や高級カルボン酸といっ た有機化合物、希土類元素を初めとする微量元素、 更に、有機溶媒により抽出可能な金属元素、といった様々な化学種の分析を行ってきました。



(1)  直鎖脂肪族炭化水素組成


 直鎖脂肪族炭化水素とは、炭素が直線状につながった炭化水素 (CnH2n+2) です。 陸上高等植物は炭素が20以上つながった長鎖炭化水素(LP: Long-chained Paraffin)を主として合成し、 海洋植物は炭素数17前後を中心とした陸上植物に比べて短鎖の炭化水素(SP: Short-chained Paraffin)を合成します。 従って、図に示した LP/SP 比は、堆積物中の「陸上高等植物と海洋植物起源の脂肪族炭化水素の存在比」を表すものと考えられます。
 北太平洋域で長鎖脂肪族炭化水素の割合が高いのは、中国・日本から偏西風にのって陸上植物起源の炭化水素が多くもたらされるからです。黄砂として、中国の泥が日本にもたらされることとメカニズムは同様です。
 脂肪族炭化水素の末端にカルボキシル基 (−COOH) の付いた高級脂肪酸も、メチルエステル化することにより測定が可能で、脂肪族炭化水素と同じように議論することが可能です。脂肪族炭化水素や高級カルボン酸組成は、陸上の堆積岩の堆積環境の推定にも応用可能かもしれません。

(Yamamoto et al., Marine Geology, 196, 157-170, 2003)
(Murayama et al., Sedimentary Geology, 125, 61-68, 1999)
(Yamamoto et al., Geochimica et Cosmochimica Acta, 61, 4403-4410,01997)





(2)  希土類元素組成


 海洋堆積物中の無機成分は、陸からの砕屑物(岩石の風化したもの)、生物起源のシリカ・炭酸塩・燐灰石や海水から沈積した無機鉱物(マンガンノジュール等)の混合比に大きく左右されます。海洋堆積物中で、これらの各成分がどのように混ざっているのかを希土類元素を指標として検討しています。
 赤道付近では、他の海域に比べて、大きな負のセリウム異常を示します。フラクション計算により魚類起源の燐灰石に起因することが分かりました。

(Takebe, Journal of Geology, 113, 201-215, 2005)




(3)  有機溶媒抽出される金属元素



 材料工学の世界では、色々な有機化合物と金属元素を化合させた有機金属化合物が合成されています。 しかし、天然にも多数の有機金属化合物が存在します。例えば、生命の根幹をになうヘモグロビンやクロロフィルなどがその例です。現在、私たちは堆積物中に含まれる有機溶媒によって抽出される金属元素を環境汚染の指標として利用できないかと検討しています。
 上の図は、ジクロロメタンで抽出した有機相中のスズの含有量を、元の堆積物に換算した濃度を示します。ほとんど人工的な汚染のない中央太平洋域では、1ppb 以下しか検出されません。 これが自然のバックグランドと思われます。 しかし、 埋め立て問題で話題となった藤前干潟堆積物を測定すると、50 〜150 ppbのスズが検出されます。藤前干潟では有機スズによる汚染進んでいる可能性があります。1980年代まで、有機スズは、船の底に生物が付着することを防ぐために使われた船舶塗料含まれていました。 この有機スズが環境ホルモンとして作用し、イボニシという巻き貝の雄が中性化してるという報告があります。
 現在では、内海域(特に大阪湾)を中心に「有機溶媒抽出される金属元素組成」の研究を進めています。「有機溶媒抽出金属元素」のページで紹介します。

(Yamada et al., Marine Pollution Bulletin, 52, 214–238, 2006)